No.4688 (2014年03月01日発行) P.42
加藤正隆 ( かとうクリニック院長(愛媛県新居浜市))
登録日: 2014-03-08
最終更新日: 2017-09-11
今週の場面
「一般診療から禁煙治療へ」
プライマリケアの現場では,禁煙外来受診目的で来院する患者以外の喫煙ステージはほとんどが前熟考期か熟考期である。ところが,プライマリケア医やメディカルスタッフの支援により,急速に準備性が高まり,禁煙治療開始となる患者をしばしば経験している。このような支援の実際について今回は述べていきたい。
【症例】健診時にメタボリックシンドロームで受診勧奨となった患者へのアプローチ
45歳,男性,会社員,通勤は自家用車。
身長169cm,体重82kg(BMI 28.7),腹囲85cm以上。
喫煙は1日40本,30年間。禁煙経験は10年前に自力で7日間。同居の父が喫煙者。
健診時のデータは,血圧146/96mmHg,LDL160mg/dL,HDL35mg/dL,TG356mg/dL。
そろそろ禁煙しなければいけないと思っているが,まだすぐにとは思っていない。自信30%。
■支援のコツ
・喫煙ステージは熟考期と思われるので,準備性をより高めるためにメタボリックシンドロームの問題点を指摘し,重要性を高める。また自信があまりないので,効果的な禁煙方法について具体的に本人に関連があるメリットを示してアドバイスし,禁煙を実行できるよう自信を高めるのがコツである。
■Adviceの例
・「健診でメタボリックシンドロームを指摘されていますね。メタボの方は心臓病や脳卒中で寝たきりになりやすいのですが,タバコを吸っているとさらに危険性が高くなるのですよ。運動や減量,減塩や動物性脂肪を控えることは必要ですが,最も大切なことはタバコを止めることなのです。禁煙を考えておられるのでしたら,今回受診していただいたのが大きなチャンスです。失敗が少なく楽に禁煙を可能にする薬も使ってみませんか。当院では禁煙治療に健康保険が使えるので治療費もタバコ代よりずっと安いですよ」
・なるべく早めに禁煙開始日を設定してもらう。バレニクリンを使用する場合は服用8日目を禁煙開始日とするのが標準であるが,より早く禁煙を開始してもかまわない。禁煙開始時には喫煙関連物品の処分,歯のホワイトニングや車の掃除など,様々な観点から区切りをつけてもらうのがコツである。
・禁煙補助薬の使用上の特徴,主な副作用と対処法は表1・2の通りである1)。
・バレニクリン発売後は,多くの医療機関で禁煙補助薬としてバレニクリンが主に処方されてきたが,2011年10月に独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)から「禁煙補助薬チャンピックス錠(バレニクリン酒石酸塩)服用中の自動車事故について」と題する医薬品適正使用のお願い2)が出された後は,自動車運転を避けられない患者にはニコチンパッチが主に処方されている。
・このバレニクリンに係る規制は,諸外国では「投与初期には十分な注意が必要」とされているのに比べあまりにも厳しいために,日本禁煙学会や日本禁煙推進医師歯科医師連盟などから見直しの要望が出されている。
◉文 献
1) 禁煙治療のための標準手順書・第5版
[http://www.j-circ.or.jp/kinen/anti_smoke_std/pdf/anti_smoke_std_rev5.pdf]
2) 医薬品医療機器総合機構(PMDA)からの医薬品適正使用のお願い No.2. 2011年10月
[http://www.info.pmda.go.jp/iyaku_info/file/tekisei_pmda_02.pdf]
3) FDA:For Consumers:Nicotine Replacement Therapy Labels May Change
[http://www.fda.gov/ForConsumers/ConsumerUpdates/ucm345087.htm]
4) NICE:Tobacco:Harm–reduction approaches to smoking/NICE public health guidance 45. June 2013
[http://www.nice.org.uk/ph45]
MEMO ニコチン製剤の使用に関するフレキシビリティー
2013年4月に米国食品医薬品局(FDA)は「ニコチンを含有する製品(シガレットを含む)を併用することは安全とみなす。禁煙中に喫煙してしまっても,ニコチン製剤の使用継続を断念するのではなく,禁煙チャレンジを継続させることが肝要である。ニコチン製剤使用者は,禁煙開始日を設定し,仮にすぐに完全禁煙できなかったとしても,禁煙すると決めた日にニコチン製剤の使用を開始すべきである。ニコチン製剤使用者は添付文書に記載されている用法・用量に沿って利用することが大事である。しかしながら,禁煙を継続させるために必要とされる場合は,用法・用量に定められた期間を超えて使用しても大体のケースにおいて安全である」と発表した3)。
また,2013年6月に英国国立健康ケア評価機構(NICE)は「喫煙者に対して,1回で禁煙をする方法を紹介することが前提。1回で禁煙する方法が困難な患者には,harm reductionアプローチを選択肢の1つとして考慮することを確認する。個々の喫煙習慣,禁煙経験,健康や生活状況などから,一番適したharm reduction方法を選択し提案する。ニコチン製剤が,禁煙の前段階として喫煙本数を減らす,または節煙を容易にする製品であること,ニコチン製剤を使用することで代償喫煙を回避し長期的な禁煙達成の可能性を上昇させることを説明する。1つまたはそれ以上のニコチン製剤を推奨し,必要に応じて可能であれば処方する。または処方できる医療機関を紹介する。使用を中止することによって再喫煙のリスクがある場合は,ニコチン製剤は長期間使用できることをアドバイスする」と発表した4)。
我が国ではこのような発表は未だないが,実臨床におけるニコチン製剤処方の際に大いに役立つ情報と言えよう。