高齢者虐待とは,在宅や介護施設内において,利用者の人権を無視して身体的にも心理的にも行動を制限して,利用者の自由を奪う行為のことである
家庭内虐待において,被虐待者(被害者)は男性より女性(76%)のほうが多く,年齢としては70~80歳代が多い。また,認知症のある高齢者が被虐待者となっている例が多かった
家庭における虐待内容としては,心理的虐待,介護・世話の放棄・放任,身体的虐待が多かった
高齢者虐待対策には加害者への対応,支援が重要である
セルフ・ネグレクト,共依存の概念の理解が必要である
高齢者虐待とは,在宅や施設内において,利用者の人権を無視して身体的にも心理的にも行動を制限して,利用者の自由を奪う行為のことである。予防や防止のためには高齢者虐待の現状やその背景を十分に理解する必要がある。
高齢者虐待の要因を大まかにまとめると,被虐待者(被害者)側の要因,加害者側の要因,そして,勤務条件などによる介護負担が課題となっている。家庭内虐待において,被虐待者は男性より女性(76%)のほうが多く,年齢は70~80歳代が多い。また,要介護状態にある高齢者や虚弱高齢者に多く,認知症のある高齢者に多かった。被虐待者本人は,虐待の行為を虐待とは認識しておらず,また虐待を知られたくないと考えている。いわゆる共依存である。
家庭における虐待内容としては,心理的虐待,介護・世話の放棄・放任,身体的虐待が多かった。被虐待者の半分以上(57.8%)が認知症(自立度Ⅱ以上)であった。
厚生労働省は2017年3月21日に,高齢者虐待の防止,高齢者の養護者に対する支援等に関する法律(平成17年法律第124号。以下,法)に基づく対応状況について2015年度の調査結果を公表した。本調査では養護者による虐待については,相談・通報件数2万6688件,虐待判断事例数1万5976件,養介護施設従事者等による虐待については,相談・通報件数1640件,虐待判断事例数408件となっていた(図1・2)。
図1では,家庭における養護者による相談・通報件数と確認後の虐待判断事例数を示した。2012年に相談・通報件数はいったん減少傾向を示したが,また2015年にかけて増加している。
図2には,施設内虐待の事例数を示した。施設では人手不足や無資格者の増加,不十分な研修により施設内虐待が増加している。施設の多様化も原因であるが,知識や経験もない,対応力の不足した職員の増加が原因と考えられる。相談・通報件数は2006年と比較して,2015年では6倍に増加している。
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