【Q】
ムンプスワクチンを2回接種したにもかかわらず抗体検査で陰性であった場合,3回目の接種を行うべきか。またそのほかの対応法があれば。
(宮城県 I)
【A】
罹患防止のため接種したほうが望ましい.対応法は,同じメーカーのワクチンを接種していた場合は,メーカー(ワクチン株)を変更するほうが良いかもしれない.ムンプスには治療薬もないので,予防することが重要である
感染症の罹患を防御する免疫は,自然免疫以外に粘膜上の分泌型IgA抗体,血中の抗体,そして特異細胞性免疫などの獲得免疫が総合的に関与している1)。免疫の有無を確認する簡便な方法として,抗体測定を行っている。
日本環境感染学会が示す「院内感染対策としてのワクチンガイドライン」2)では,ムンプスワクチンの2回接種を求めており,その後は抗体測定も必要ないとしている。
現在,我が国で使用されているムンプスワクチンの抗体陽転率は,星野株91.1%,鳥居株90%以上と添付文書に記載されている。しかし,ワクチン接種1回後の有効率はワクチン株による差はなく,80〜90%と報告されている3)。よって,たとえ2回接種したとしても,単純計算で1〜4%は罹患することになる。
ワクチン接種の目的は罹患防止であるが,抗体陽性となると罹患を防御できるのだろうか。それは否である。ワクチンを接種しても抗体が陽転しなかった一次性ワクチン効果不全(primary vaccine failure)のほか,二次性ワクチン効果不全(secondary vaccine failure)がある。
ワクチン接種後抗体は陽転したが,時間経過とともに低下した場合を二次性ワクチン効果不全と呼ぶ。特に自然感染による免疫のブースター効果がなくなった場合,これが発生しやすくなる。
実際,欧米ではMMRワクチンによる2回接種の徹底によってムンプスの流行がなくなっていたが,2004〜07年に大学生の間でムンプスのアウトブレイクがあった。米国の報告では,その罹患者のうち49%が2回接種を受けた学生であった4)。
欧米で使用されるワクチン株のほとんどはJeryl Lynn株で,日本で使用されている株とは異なる。しかし,この報告によると,ムンプスの自然感染によるブースター効果が長期間なかったことが,罹患の主な原因と考えられている。
すなわち,2回接種によっても,またたとえ抗体が陽転しても,将来にわたって罹患防止できると断言できない。さらに自然感染のムンプス罹患後であっても再感染によってムンプスを発症するという報告が散見されている5)6)。
最後に,表1に示すようにEIA法と比較した抗体測定法のチェックも必要である7)。EIA法で測定したムンプス抗体と比較して,HI法では69%の感度しかなく,CF法ではわずか8%の感度しかない。そのため,EIA法で陽性検体が他の方法で測定すると偽陰性となってしまう。
○
結論は,ムンプスは自然感染あるいは2回のワクチン接種によって抗体が陽転しても,少ない確率だと思われるが,罹患を防止できるとは言えない。そのため,抗体陰性である場合は接種するほうが望ましい。
我が国で使用されている星野株と鳥居株はどちらもSH遺伝子がB型,HN遺伝子がⅡ型と近縁であるが,以前に同じメーカーのワクチンを2回接種している場合は,次は異なるメーカーのワクチン(ワクチン株)で追加接種するのが良いであろう。
文 献
1) Esser MT, et al:Vaccine. 2003;21(5-6):419-30.
2) 日本環境感染学会ワクチン接種プログラム委員会:日環境感染会誌. 2009;24(3):np1-S11.
3) 落合 仁, 他:小児臨. 2007;60(3):489-94.
4) Centers for Disease Control and Prevention (CDC):MMWR. 2006;55(42):1152-3.
5) 庵原俊昭:臨とウイルス. 2008;36(1):50-4.
6) 畑中章生, 他:日耳鼻会報. 2012;115(8):787-90.
7) 寺田喜平, 他:感染症誌. 2000;74(8):670-4.