1月上旬、A(H1N1)pdm09のタミフル耐性ウイルスについて、NHKを中心に、メディアが以下のような報道を繰り返した。
「抗ウイルス薬のタミフルとラピアクタが効きにくいタイプのインフルエンザウイルスに感染した人が、札幌市で相次いで見つかり、国立感染症研究所は、リレンザなど別のタイプの薬を選択することも検討する必要がある、と注意を呼びかけています」
「新型インフルエンザとして流行したH1N1型のウイルスにこの冬感染した札幌市の患者6人について、いずれもタミフルとラピアクタが効きにくいタイプのウイルスだったことが分かりました。これらのウイルスでは、薬の効果を示す感受性が、通常の500分の1ほどにまで下がっているということです」
H275Y変異を持つA(H1N1)pdm09ウイルスが、ノイラミニダーゼ阻害薬の治療を受けていない患者から検出された。このウイルスは、オセルタミビル(タミフル)とペラミビル(ラピアクタ)に耐性を示すが、ラニナミビル(イナビル)とザナミビル(リレンザ)には感受性がある。
オセルタミビル治療後の患者から耐性ウイルスが検出されるのは問題ないが、今回は治療前であり、耐性ウイルスが人から人に感染した可能性があるので、重大な情報である。
しかし、国立感染症研究所の報告は、札幌での分離ウイルスのIC50を精査したもので、臨床効果を検討した報告ではない1)。
IC50は、インフルエンザウイルスのノイラミニダーゼ活性を50%抑制するのに必要な阻害薬濃度のことで、nM/Lで表記される。IC50が高値になると、より高濃度のノイラミニダーゼ阻害薬が必要で、薬剤効果が低下したことになり、ウイルスから見れば耐性化したことになる。
A(H1N1)pdm09のIC50は、感受性株(耐性変異のないウイルス)ではオセルタミビルで0.31nM/L、ペラミビルで0.13nM/L、ラニナミビルで0.29nM/Lであった。一方、H275Y 変異を持つA(H1N1)pdm09耐性株では、オセルタミビルで214.2 (189–257) nM/L、ペラミビルで25(22–35)nM/Lと、それぞれ約610倍(189/0.31)、約170倍(22/0.13)の上昇となった2)。この数値は大きく見えるが、分母の感受性株のIC50により大きく動き、他の報告では、それぞれ410倍と83倍であった3)。ラニナミビルやザナミビルではIC50に変動はなく、感受性が保たれた。
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