主 訴▶体のだるさ,全身の筋肉痛・関節痛
現病歴▶4カ月前から全身倦怠感,関節痛や筋肉痛が出現。症状の改善なく,総合病院で精査されたが原因不明のため当科へ紹介。
既往歴▶なし。
★=症例提供者
医師A★:患者は北陸在住の消防士の方です。4カ月前から全身倦怠感,関節痛や筋肉痛を自覚しました。近医で心因性と言われましたが,現場勤務から事務職に職場配置転換を余儀なくされています。総合病院を受診しましたが,そこでも原因不明と言われ,当科へ紹介となりました。
教授:この主訴から,どのようなことを考えますか?
学生A:関節リウマチだと思います。
教授:主訴の中で関節痛より前にある体のだるさはどう考えますか? 患者の訴えの順番は大切です。
学生A:あえて関節痛を取って,だるさを捨てました。
教授:その理由は何ですか?
学生A:何となく・・・・・・。
教授:関節痛のほうが鑑別疾患数が少ないからですよね。だから関節痛を取り,その中で最も頻度が高い関節リウマチを挙げた,という思考プロセスではないですか?
学生A:言われてみるとそうです。
教授:思考プロセスの言語化は自身のみならず,参加者全体の診断レベルの向上につながるので大切です。なぜ上手く想起できたのか,あるいは間違ったのかを言語化しながら省察する習慣を身につけて下さい。では,症例に戻りましょう。
医師A★:2013年4月に全身のだるさ,筋肉の痛みを自覚し,近医内科を受診して,心因性と判断されました。さらに総合内科,整形外科,神経内科を受診し,異常なしと言われています。
教授:北陸の総合内科からの当部紹介ということですか?
医師A★:はい。前泊して1人で来院されました。
研修医A:痛みの部位を知りたいです。
医師A★:両肩,両膝,両手指,腰です。
研修医B:動作で悪化しますか?
医師A★:動かすと痛みが強くなります。
教授:動作による痛みの悪化は筋骨格系の問題を示唆しますね。次に何を聞きますか?
研修医A:自動痛か他動痛かを聞きます。
教授:そうですね。他動痛より自動痛のほうが明らかに強い場合は,筋肉,腱,滑液包などの関節外の問題を示唆しますね。追加で知りたいことは?
一同:・・・・・・。
教授:どの方向に動かしても痛いなら関節由来ですね。筋,腱由来なら痛みの出る動きの方向があります。
医師A★:いずれも病歴ではっきりしませんでした。
教授:physicalで確認しましょう。関節炎が疑われる場合に聞くべき大切な質問がもう1つあります。
研修医A:朝のこわばり。
教授:そうです。
医師A★:朝のこわばりはありますが,長くても30分です。
教授:30分以内の朝のこわばりをどう考えますか?
研修医C:30分以内ということは,炎症はあっても軽微かと思われます。
教授:朝のこわばりのメカニズムはわかりますか?
研修医C:・・・・・・。
教授:夜間や睡眠中に動かさないでいると,関節内および関節周囲の浮腫が増加します。起床後,関節を動かすと痛みますが,循環の改善とともに徐々に液体が吸収され,浮腫とこわばりが取れるのです。こわばりが30分以上続くことが関節リウマチに代表されるような関節炎がある証拠となるので,この患者さんが関節リウマチである確率は低くなります。
残り3,788文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する