合併症〔慢性腎臓病(CKD),心疾患,糖尿病〕のある高齢者高血圧に対する降圧目標については,まず年齢による降圧目標(65~74歳:140/90mmHg未満,75歳以上:150/90mmHg未満)とする
さらに忍容性があれば,合併症による低いほうの降圧目標(CKD合併の有無にかかわらず,糖尿病合併高血圧の場合,および糖尿病非合併CKDでは蛋白尿・アルブミン尿を有する場合に130/80mmHg未満)をめざして緩徐に降圧を図る
合併症(CKD,心疾患,糖尿病)のある高齢者高血圧に対する降圧治療において推奨される降圧薬については,非高齢者に比べてエビデンスがきわめて限られている状況から,非高齢者での推奨内容に準じる
ただし,「CKD診療ガイドライン2013」では,65歳以上の高齢者CKDにおける第一選択薬として,非高齢者とは異なり,糖尿病・蛋白尿(アルブミン尿)合併の有無に関係なく,Ca拮抗薬,RA系阻害薬,利尿薬の各降圧薬を同等に推奨している
高齢者CKDにおいても,降圧療法はCKDの進行および心血管合併症(CVD)の発症を抑制するとされている。非高齢者CKDにおける降圧療法に関しては,国内では日本腎臓学会,日本高血圧学会がともにCKD進行・CVD発症の観点からエビデンスを検証し,糖尿病・蛋白尿(アルブミン尿)合併の有無の病態に応じた個別的な降圧目標と第一選択降圧薬の推奨内容をまとめた治療ガイドラインの改訂を行った〔「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2013」,「高血圧治療ガイドライン2014(JSH2014)」〕1)2)。しかし,高齢者CKDにおける降圧療法では,臓器循環不全に注意して緩徐な降圧を図ることが重要である。
上記の両者のガイドラインでは,高血圧を伴う非高齢者の糖尿病非合併CKDの降圧目標値について,CKD進行抑制およびCVD合併予防を目的として,140/90mmHg未満としている。一方,糖尿病非合併CKDでもA2,A3区分(蛋白尿・アルブミン尿合併)や糖尿病合併CKDでは,降圧目標値として130/80mmHg未満を推奨している1)2)。この目標値の根拠となったエビデンスには,高齢者CKDが入った対象患者での研究結果も含まれている。
一方,高齢者CKDのみを対象とした研究は限られており,65歳以上の高血圧を有するCKD患者を対象にCa拮抗薬を用いた症例対照研究では,収縮期血圧160mmHg未満への降圧治療による腎機能障害抑制効果が示されている3)。また,65~85歳の高血圧患者を対象としたCa拮抗薬による介入試験(JATOS研究)でのCKD患者を対象としたサブ解析では収縮期血圧が160mmHg未満の場合にeGFRが改善することが報告されている4)。
これらの結果からは高齢者CKDの腎機能障害の進行抑制をめざした降圧目標値が収縮期血圧160mmHg未満程度である可能性も示唆しており,非高齢者CKDの目標値よりかなり高めである。これは,CKD患者に限定されない80歳以上の高齢者を対象とした介入試験(HYVET研究)において,全死亡,脳卒中による死亡および心不全のリスクを減少させた降圧目標値150/80mmHgが,非高齢者での降圧目標値より高値であった傾向にも合致している5)。よって,高齢者CKDにおける腎機能障害進行抑制をめざした至適降圧目標値は,非高齢者CKDの場合よりも高めになる可能性があり,また,現時点では十分なエビデンスがあるとも言えない状況であるために,JSH2014では年齢による降圧目標と合併症の存在による降圧目標が異なる場合,まず年齢による降圧目標(65~74歳:140/90mmHg未満,75歳以上:150/90mmHg未満)とし,忍容性があれば合併症の存在による低いほうの降圧目標をめざすとしている2)。一方,糖尿病や蛋白尿を伴い,腎機能障害の進行や脳血管障害を含むCVD発症の高リスクと考えられる高齢者CKDに対しては,より厳格な降圧が望ましいとも考えられる。
したがって,「CKD診療ガイドライン2013」では,65歳以上の高齢者の高血圧を伴う糖尿病非合併CKDに対しては,まず140/90mmHg未満をめざして緩徐に降圧することを推奨している。そして,高血圧を伴う高齢者の糖尿病非合併CKDでA2,A3区分(蛋白尿・アルブミン尿合併)に対しては,腎機能の悪化や臓器の虚血症状がみられないことを確認しながら130/80mmHg未満をめざして緩徐に降圧することを提案している。また,高血圧を伴う高齢者の糖尿病合併CKDに対しては,腎機能の悪化や臓器の虚血症状がみられないことを確認しながら,130/80mmHg未満をめざして緩徐に降圧するよう提案している(いずれもエビデンスレベルが低い状況での弱い推奨)。
ただし,高齢者は脳動脈,冠動脈,腎動脈などの動脈硬化性狭窄症を合併していることが多いとされ,過度の降圧には十分な注意を要する。高齢者CKD対象あるいは高齢者CKDを含む研究の結果では,110/60~70mmHg未満の血圧値が全死亡や予後不良の転帰と関連していた6)。
また,国内のコホート研究では,腎臓専門医が高齢者を含むCKD患者を管理した場合,診察室血圧110/70mmHg未満の患者群では末期腎不全の増加はみられないものの,CVD合併と全死亡のリスクの上昇が認められ,CKDにおける降圧下限値として110/70mmHg程度が示唆される結果であった7)。そのため,「CKD診療ガイドライン2013」では,高血圧を伴う高齢者CKDに対して,過剰な降圧は急性腎障害と生命予後悪化のリスクのために避けるべきとしつつ,現状ではエビデンスに基づいた降圧目標の下限値は設定困難であり,患者の全身状態に応じて個々に定めるべきであるとしている。また,「CKD診療ガイド2012」では,過度の降圧は腎機能を悪化させる可能性があり,特に65歳以上の高齢者では目安として診察室血圧で収縮期血圧110mmHg未満への降圧は避けるべきとしている8)。
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