▶医師偏在対策の議論が進む厚生労働省の医師需給分科会。従来、偏在対策は診療報酬など主にインセンティブを付与する方法で実施されてきたが、現在分科会では規制的手法も議論の俎上に載っている。その1つが医療機関の管理者要件だ。厚労省は、医師少数区域での勤務を一定の病院の管理者として評価する案を提示したが、評価の対象に診療所が含まれていないことに反対意見もある。
▶厚労省によれば、医師少数区域での勤務経験を課すといった、無床診療所の開設に新たな制度上の枠組みを設ける場合、複数の法制的・政策的課題があるという。一つ目は自由開業制の原則だ。憲法で保障された「営業の自由」との関係で許容されうるのか、また国民皆保険で保険料の支払い義務が課されている被保険者の平等な医療アクセス(法の下の平等)との関係の整理が必要となる。
▶二つ目。医療法は「提供される医療の安全性の確保」「(全国における)医療提供体制の確保」といった衛生規制のため、過剰な医療資源の集中を防ぐための枠組みを医療法に設けることが許容されうるのかを整理する必要がある。三つ目は、新たな枠組みにより新規参入による開業が抑えられた場合に、既存の医療機関で医療の質を改善するインセンティブが低下する懸念。そして四つ目は規制導入前の「駆け込み開設」が生じる懸念だ。
▶医師偏在対策の議論は年内に終わり、来年の通常国会に医療法等の改正案が提出される予定だ。法制的・政策的課題を見ると、管理者要件に無床診療所を含めることは短期的には実現可能性は低い。ただ、分科会構成員からは「診療所を含めないと偏在対策にならない」との意見も根強く、長期的課題として議論が続くことも予想される。