慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー(CIDP)は2カ月以上かけて進行する慢性の免疫介在性ニューロパチーであるが,大部分の症例で標的抗原は判明していない。有髄神経の傍絞輪部に局在しているneurofascin 155(NF155)は髄鞘形成細胞から発現している蛋白であり,軸索側から発現しているcontactin-1やCasprとともに髄鞘と軸索間の形成維持に重要な役割を担っている。近年,これらの傍絞輪部に局在する蛋白がCIDPの標的抗原として注目されている。
NF155に対する抗体はCIDPの約4~18%で検出される。抗NF155抗体陽性のCIDPの臨床的特徴は発症年齢が比較的若年で,運動失調や重度の振戦を伴い,経静脈的免疫グロブリン療法(IVIg)に対しては治療抵抗性であるが副腎皮質ステロイドや単純血漿交換法が有効であることが多い1)。
抗NF155抗体陽性のCIDP患者では神経根の肥厚を呈することが多いが,末梢神経病理ではエポン標本でonion bulbはみられず,電子顕微鏡で髄鞘と軸索間の間隙の拡大とtransverse bandの消失がみられ,本抗体が病態に密接に関わっていると考えられる2)。抗NF155抗体のIgGサブクラスは主にIgG4であり補体の活性化をきたさないため,どのような機序によって神経障害が引き起こされるかはいまだ不明であるが,NF155はCIDPの重要な標的抗原のひとつと認識されつつある。
【文献】
1) Ogata H, et al:Ann Clin Transl Neurol. 2015;2 (10):960-71.
2) Koike H, et al:J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2017;88(6):465-73.
【解説】
桑原 基 近畿大学神経内科講師