慢性甲状腺炎(橋本病)は,潜在患者を含めると日本人の3~5%にも達する国民病である。甲状腺機能の低下や亢進に伴って認知症や小脳性失調症をきたすことは古くから知られていた。しかし,甲状腺機能は正常であるにもかかわらず,慢性甲状腺炎に伴う自己免疫的異常を背景として,様々な精神・神経症状をきたす疾患が「橋本脳症」として注目されている。
橋本脳症は,一時期は,「診断が見過ごされている治療可能な疾患」とさえ言われたこともあった。橋本脳症は,広い臨床スペクトラムを有することから,神経内科ばかりでなく,精神科,救急診療科などの多くの診療科にまたがる。その疾患の認知度は向上しているものの,いまだに適切な診断と治療がなされていない潜在的患者も多く存在すると推察する。
橋本脳症の臨床の概要を述べたあと,2人の専門家に認知症と小脳性失調に焦点を絞り,それぞれ詳しく説明して頂いた。橋本脳症を,日常診療に隠れている治療可能な疾患として,本特集を通してぜひ知って頂きたい。
1 橋本脳症─診断と治療のヒント
福井県立大学看護福祉学研究科教授 米田 誠
2 治せる認知症としての橋本脳症
福井大学医学部附属病院神経内科 松永晶子
3 治せる小脳性失調症としての橋本脳症
東京医科大学医学教育推進センター兼任教授 三苫 博