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左尺骨茎状突起に出現・消失した苦痛の原因は?【DRUJや豆状・三角骨関節への遊離体の嵌頓,尺側手根伸筋腱の亜脱臼,尺側背側構成体の圧迫が原因となる】

No.4893 (2018年02月03日発行) P.58

浜田佳孝 (北須磨病院整形外科部長)

波多野 希 (北須磨病院院長)

登録日: 2018-02-01

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  • 65歳,男性。電車のデッキで,左手関節を背屈位(約90度)で電車の壁に押しつけるようにして立っていたところ,急に左手関節尺側でちょうど左尺骨茎状突起のあたりに今まで経験したことのないくらいの苦しさが出現しました。電車から降りて病院に直行しようと思ったほどでしたが,手首をひねるような動作をしたところ,急に楽になって事なきを得ました。場所的には三角線維軟骨複合体(triangular fibrocartilage complex:TFCC)のあたりと考えられますが,このあたりで絞扼されたりあるいは亜脱臼したりということがありうるのでしょうか。

    (秋田県 F)


    【回答】

    手関節尺側部痛をきたす疾患は多数あります。しかし,ご質問のように強い痛みの発作が急激に生じ,手首をひねるようにしていたら寛解したというエピソードからは,何かがひっかかる(?),亜脱臼(?)するような物理的に非生理的な状態が生じ,それが元に戻って症状が消失したという可能性,もしくは手関節を背屈させてしばらく押さえつけていたことから,手関節背側の構成物(関節,腱や神経)を圧迫していた可能性等が推測されます。

    手関節尺側部を背側から見た解剖図(図1)をもとに,起こりうる病態を説明します。図内1の灰色で描いた広範囲な複合体がTFCCと呼ばれるもので,青い所はdiscと呼ばれる柔らかい実質部分です。橈骨(2)と尺骨(3)から形成される遠位橈尺関節(distal radioulnar joint:DRUJ,4)は,手関節から前腕の回旋運動に寄与します。月状骨(5)と三角骨(6)は,月状・三角靱帯(7)で強固に結合しています。この三角骨(6)は,掌側で豆状骨(8)とも関節を形成しています(豆状・三角骨関節)。尺側手根伸筋腱(9)は,手首を背屈させる腱ですが,その周囲の腱鞘床はTFCCを構成し,安定性に寄与しています。また,皮下の浅い所を,青色で示した痛み刺激の原因となる尺骨神経背側枝(10)が掌側から回り込むように遠位に向かって走行していきます。

    少し専門的になりますが,TFCCは名前の通り複合体で,図1の中でも灰色の広範囲からなり,手首尺側に存在する周囲の靱帯構造からなる線維軟骨─靱帯─軟部複合組織です。ハンモック状の遠位(図内a),橈骨と尺骨の間を直接支持する三角靱帯(深層と浅層からなる橈尺靱帯,図内b),機能的尺側側副靱帯である尺側手根伸筋腱腱鞘床と尺側関節包(図内c)で構成されます。手関節の尺側の支持性,手首の各方向の運動性,手根骨─尺骨間の荷重伝達・分散・吸収に寄与します1)

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