(秋田県 F)
手関節尺側部痛をきたす疾患は多数あります。しかし,ご質問のように強い痛みの発作が急激に生じ,手首をひねるようにしていたら寛解したというエピソードからは,何かがひっかかる(?),亜脱臼(?)するような物理的に非生理的な状態が生じ,それが元に戻って症状が消失したという可能性,もしくは手関節を背屈させてしばらく押さえつけていたことから,手関節背側の構成物(関節,腱や神経)を圧迫していた可能性等が推測されます。
手関節尺側部を背側から見た解剖図(図1)をもとに,起こりうる病態を説明します。図内1の灰色で描いた広範囲な複合体がTFCCと呼ばれるもので,青い所はdiscと呼ばれる柔らかい実質部分です。橈骨(2)と尺骨(3)から形成される遠位橈尺関節(distal radioulnar joint:DRUJ,4)は,手関節から前腕の回旋運動に寄与します。月状骨(5)と三角骨(6)は,月状・三角靱帯(7)で強固に結合しています。この三角骨(6)は,掌側で豆状骨(8)とも関節を形成しています(豆状・三角骨関節)。尺側手根伸筋腱(9)は,手首を背屈させる腱ですが,その周囲の腱鞘床はTFCCを構成し,安定性に寄与しています。また,皮下の浅い所を,青色で示した痛み刺激の原因となる尺骨神経背側枝(10)が掌側から回り込むように遠位に向かって走行していきます。
少し専門的になりますが,TFCCは名前の通り複合体で,図1の中でも灰色の広範囲からなり,手首尺側に存在する周囲の靱帯構造からなる線維軟骨─靱帯─軟部複合組織です。ハンモック状の遠位(図内a),橈骨と尺骨の間を直接支持する三角靱帯(深層と浅層からなる橈尺靱帯,図内b),機能的尺側側副靱帯である尺側手根伸筋腱腱鞘床と尺側関節包(図内c)で構成されます。手関節の尺側の支持性,手首の各方向の運動性,手根骨─尺骨間の荷重伝達・分散・吸収に寄与します1)。
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