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(2)高血圧を合併した妊婦の周産期管理 [特集:内科的疾患を合併した 妊婦の周産期管理]

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  • 5. 妊婦における家庭血圧

    妊娠管理において血圧測定は必須であり,これまで高血圧の診断では医療施設で測定した診察室血圧(clinic blood pressure:CBP)が用いられてきた。近年,家庭血圧(home blood pressure:HBP)の測定は,CBPよりもorgan damageや生命予後と強く相関することが明らかになり11),高血圧の早期発見や降圧治療の効果判定に有用と考えられるようになってきた。内科領域におけるHBPの意義をふまえ,CBPを用いた妊娠管理が注目されている。
    筆者の施設でも,Medical LINK(患者の測定による日時,収縮期血圧,拡張期血圧, 脈拍数,室温,測定回数などのデータが血圧計に内蔵された3G通信機能により自動でOMRON HEALTHCARE Co., Ltd.専用サーバーへ転送され蓄積される)を用いてHBP測定を行い,妊娠管理におけるHBPの有用性を検討した(データ論文投稿中)。それによれば,正常血圧群において,HBPは妊娠後徐々に低下して,朝の血圧は妊娠15週,夕の血圧は妊娠19~20週に最低値となり,その後上昇した。脈拍数は朝夕ともに妊娠後より上昇し,妊娠31週でピークに達したあと,低下した。血圧,脈拍ともに産褥25~36週で妊娠初期のレベルに戻った。妊娠中のHBPは妊娠20週頃にnadir(最下点)になることから,妊娠期間を1st trimester(妊娠14週未満),early 2nd trimester(妊娠14週0日~妊娠20週6日),late 2nd trimester(妊娠21週0日~妊娠27週6日),3rd trimester(妊娠28週以降)にわけて検討すると,産褥期も含め,いずれの期間においてもHBPとCBPに統計学的に有意な相関関係を認めた。また,朝夕どちらで測定したHBPでもCBPとの相関の強さに変わりはなかった。
    各週の家庭血圧値と同じ週の診察室血圧による一次回帰直線より,診察室血圧140/90mmHgに相当するHBP(収縮期血圧/拡張期血圧mmHg)を求めると,1st trimesterで113.3/76.5,early 2nd trimesterで115.6/75.2,late 2nd trimesterで116.5/74.8,3rd trimesterで124.2/79.3mmHgであった。産褥期は分娩後4週以内は127.4/81.1mmHg,分娩後5〜8週の間では122.8/78.0mmHgであった。非妊婦でのHBPにおける高血圧の診断基準は135/85mmHg以上としているが,妊婦の高血圧の基準値はそれより低い可能性があることが示唆された。今後,さらなる検討が必要と考えられる。


    ●文献
    1) 母子保健事業団:母子保健の主なる統計. 母子保健事業団, 2015, p51-2.
    2) 厚生労働省:平成22年国民健康・栄養調査結果の概要. p5-6.
    [http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/eiyou/h22-houkoku.html]
    3) 栃木県:第2章 医療費を取り巻く現状と課題. 栃木県医療費適正化計画(2期計画).
    [http://www.pref.tochigi.lg.jp/e09/documents/tekiseika2-02.pdf]
    4) Seki H:Acta Obstet Gynaecol Scand. 2014;93(10):959-64.
    5) 日本妊娠高血圧学会, 編:妊娠高血圧症候群の診療指針 2015. メジカルビュー社, 2015.
    6) Bramham K, et al:BMJ. 2014;348:g2301.
    [http://dx.doi.org/10.1136/bmj.g2301]
    7) Yoder SR, et al:Am J Med. 2009;122:890-5.
    8) Mathews TJ, et al:National Center for Health Statistics Data Brief. No21, 2009.
    9) Broekhuijsen K, et al:Acta Obstet Gynecol Scand. 2015;94(12):1337-45.
    10) Seki H, et al:Int J Gynaecol Obstet. 2002;76(2):135-41.
    11) Karpettas N, et al:Hypertens Res. 2014;37(6):543-7.

     他科からのQuestion  

    Q1 内科領域では,血圧は可能な限り下げたほうが臓器障害を予防できると考えられていますが,なぜ高血圧を有する妊婦の降圧の程度は控えめなのですか?

    A1 血圧がきわめて高いと母体では脳血管障害や子癇の危険性が高く,これを回避するためには可及的速やかな降圧が必要となります。一方,胎児においては末梢血管抵抗の上昇による胎児胎盤循環不全が存在し,代償的に血圧を上昇させることにより,辛うじて胎盤循環が保たれています。このような場合に過度かつ急激な降圧を行うと,医原的に胎児胎盤循環不全を悪化させ,胎児はきわめて危険な状態となります。降圧は母体にとっては善ですが,胎児には悪で,妊娠中の降圧療法はそのようなジレンマの中で行われています。

    Q2 内科領域で汎用される降圧薬が高血圧を有する妊婦にあまり使用されないのはなぜですか?

    A2 内科領域で汎用されているACE阻害薬やARBは妊婦禁忌です(表3)5)。ヒドララジン塩酸塩やメチルドパ水和物は必ずしも降圧効果が高いわけではありませんが,妊婦への使用経験が豊富で,添付文書に従って投与すれば比較的安全に使用できます。妊婦への降圧薬としては,カルシウム拮抗薬が最も有効です。α,βブロッカーも心拍出量を減少することなく末梢血管抵抗を低下させ,血圧降下による反射性頻脈を抑制して,糖・脂質代謝,R-A-A系にほとんど影響を及ぼさずに,胎児胎盤循環や腎循環の血液量を維持するので,妊婦への降圧薬としては優れた特性を有しています。ヒドララジン塩酸塩,メチルドパ水和物,ラベタロール塩酸塩は妊娠20週未満の妊婦にも投与できますが,ニフェジピンは妊娠20週以降に投与が認められています。妊婦に対する降圧薬の選択には「胎児への安全性」という制限があります。

    Q3 妊娠管理に家庭血圧を用いる場合の注意点を教えて下さい。

    A3 いまだに十分なデータの蓄積があるわけではないので,確定的なことは言えませんが,高血圧の基準値は非妊婦(135/85mmHg)よりも低い可能性が示唆されています。おそらく,診察室血圧140/90mmHgに相当するのは,115~125/75~80mmHgと推定され,基準値は妊娠時期により変わると考えられます。今後さらなるデータの集積が必要と考えます。

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