(秋田県 F)
一側下肢の麻痺は,脳病変,頸椎病変,腰椎病変のいずれでも起こりえます。脳病変の詳細については(3)をご参照下さい。
典型的な頸椎病変の場合,頸部運動時の痛み,上肢と下肢の麻痺や感覚障害,体幹の感覚障害,下肢の深部腱反射亢進,下肢の痙性麻痺を呈します。腰椎病変の場合,上肢の症状を伴わずに,腰椎の痛み,下肢の麻痺や感覚障害,下肢の深部腱反射低下,下肢の弛緩性麻痺を呈します。
しかし,本症例は既に頸椎の手術を受けられており,頸椎疾患の既往があること,糖尿病の罹病期間が長く,糖尿病に伴う感覚障害や深部腱反射低下で症状が修飾されている可能性があることより,症候による病変部位の推察が難しいものと推察されます。鑑別にはMRIによる頸椎と頸髄,腰椎と腰髄評価が有用と考えます。
腰椎病変によって一側下肢の麻痺を呈する場合,通常,腰痛や腰から下肢に腰椎病変部に対応した感覚低下を伴います。また髄膜刺激徴候(ラセーグやケルニッヒ徴候など)をしばしば呈します。
本症例は重度の糖尿病歴が長期間続いているので,糖尿病性神経障害を合併している可能性があります。それによって,痛みや感覚障害が出にくいこともあります。
脳梗塞によって一側下肢のみの麻痺が起こりえます。前頭葉の中心前回は運動を司る神経が集約していますが,解剖学的な広がりがありますので,脳梗塞の発生部位に応じて様々な形の麻痺が起こりえます。下から上に向かって顔面,上肢,下肢の運動を司りますので,梗塞巣の部位に応じて顔面や上肢や下肢のみに麻痺が起こりえます。大脳の上方(頭頂部)は前大脳動脈が灌流し,下方は中大脳動脈が灌流します。したがって,中大脳動脈が閉塞すると顔面麻痺,舌下神経麻痺,および上肢の麻痺が起こりやすく,前大脳動脈が閉塞すると下肢に強い麻痺が起こります1)。ほかにも放線冠や橋では上肢と下肢の運動神経間にやや距離があるため,小さな梗塞が生じると一側下肢や一側上肢の単麻痺が起こりえます。
【文献】
1) 伊藤義彰:必携脳卒中ハンドブック. 改訂第3版. 高島修太郎, 他, 編. 診断と治療社, 2017, p10-5.
【回答者】
矢坂正弘 国立病院機構九州医療センタ 脳血管・神経内科科長