(秋田県 F)
肘部管症候群は,男女ともにすべての年代で発生します。肘の変形,骨棘形成などによる尺骨神経の圧迫によるものが多いのですが,外反肘,筋肉の異常や肘部管内に発生したガングリオンなども原因となります。
環指の知覚障害は,末梢神経疾患の診断に重要です。指の神経は2本あり各指の橈側と尺側の掌側を走行します。尺骨神経が走行するのは小指と環指の尺側です(図1)1)。正中神経が走行するのは,環指の橈側と中指,示指,母指です。
そのため,肘部管症候群では小指全部と環指尺側の知覚障害が発生します。手根管症候群による正中神経麻痺では,母指から環指橈側までの知覚障害が発生します。頸部神経根症,頸髄症では,環指の橈側と尺側で知覚が違うことはまずありません。小指から環指尺側のみ知覚障害がある場合は,肘部管症候群による尺骨神経麻痺を強く疑います。
手の尺側の知覚障害であっても環指の橈側まで及んでいたり,中指の知覚障害がある例では他の疾患を考えます。発症様式として,頸部や肩甲骨の痛みで発症し,その後前腕から手のしびれが出現した場合は,頸椎疾患を強く疑います。注意深い問診や繰り返しの診察が診断の決め手となります。
尺骨神経麻痺では,手の内在筋が麻痺するため握力が低下し,進行例では手背の筋肉が萎縮してきます。わかりやすいのは,母指と示指の間にある第一背側骨間筋の萎縮と鉤爪変形と呼ばれる環指・小指の伸展障害です。手の内在筋の萎縮は頸髄症の進行例でも認められるので,それのみで肘部管症候群と頸椎疾患との鑑別は難しいことがあります。
尺骨神経が走行する肘内上顆と肘頭の間のくぼみ(肘部管)を叩打したときに小指や環指にしびれが放散するティネル(Tinel)様徴候,肘の屈曲を5分間行わせ手のしびれを再現させる肘屈曲テスト(肘を90°屈曲させると肘部管の内圧は3倍に増加する)などがあり,これらが陽性であれば肘部管症候群の可能性が高くなります。
逆に頸部を後屈するJacksonテストや頸部を患側へ側屈後屈させるSpurlingテストで手のしびれが再現される場合は頸椎疾患を疑います。確定診断としては尺骨神経伝導速度測定が行われます。
肘部管症候群の治療として,ビタミンB12の内服が行われます。それ以外の保存治療はあまり効果がなく,診断がつきしだい手術を行うことが多い疾患です。
【文献】
1) 中村利孝, 他:標準整形外科学. 第13版. 医学書院, 2016.
【回答者】
佐藤光太朗 岩手医科大学医学部整形外科学講師