甲状腺乳頭癌の過剰診断・過剰治療が問題となっている。その原因には,超音波などの検査機器の精度向上と検診機会の増加による無害な潜在性微小乳頭癌の発見の増加があるが,もう1つの理由として,特に米国においては濾胞型乳頭癌(follicular variant of papillary thyroid carcinoma:FV PTC)と診断されるケースの増加が挙げられる。最近,被膜を有するFVPTCのうち,浸潤性増殖(被膜・脈管浸潤)を伴わない109例では,平均14年のフォローで再発・転移はなく,死亡例は皆無であったことが示され,乳頭癌様核を有する非浸潤性甲状腺濾胞性腫瘍(noninvasive follicular thyroid neoplasm with papillary-like nuclear features:NIFTP)の用語を使用することが提唱された1)。これによって,これまでFVPTCと診断されてきた腫瘍の一部をがんと分類しないことになり,患者の精神的負担を軽減できるとともに,予後の良い低リスクの腫瘍に対する過剰治療を防ぐことができるという。
2010年にWilliamsらが,病理医の間で診断が一致しない(observer variation:OV)症例の整理のために提唱した悪性度不明の高分化腫瘍(WDT UMP)とともに,NIFTPは境界悪性病変として,17年改訂の内分泌腫瘍のWHO分類第4版に採用された。細胞診や超音波診断,遺伝子診断との整合性,境界悪性病変の採用により,実際にOVや過剰診断・過剰治療が減少するかどうか,などが今後の検討課題となる。
【文献】
1) Nikiforov YE, et al:JAMA Oncol. 2016;2(8): 1023-9.
【解説】
杉谷 巌 日本医科大学内分泌外科大学院教授