昨今,整容を目的とした顔面の異物注入治療は増加傾向にあるが,合併症も急増している。注入剤によるアレルギー,感染,動脈塞栓の3つが臨床上重要である。発赤・疼痛・熱感を主症状としたアレルギーや感染に対しては,抗アレルギー薬や抗菌薬の投与など対症療法を行い,速やかに専門医を受診することが必要であると考えられる。
動脈塞栓症は注入部位周囲の動脈内に注入剤が逆行性に誤注入されることによるもので,特徴的な症状(冷感,疼痛,皮膚蒼白,紫斑)を生じる。さらに,中枢の動脈の塞栓を生じた場合は,視野欠損や失明を引き起こす1)。
注入剤が溶解できるもの(ヒアルロン酸)であれば溶解剤(ヒアルロニダーゼ)を局所注射することが望ましいが,溶解剤はアナフィラキシーショックを誘発する可能性もあるため,慎重投与が望まれる。塞栓を生じた部位のマッサージや保温,外用亜硝酸剤軟膏,内服アスピリン製剤,内服・点滴ステロイドも局所の悪化を抑制するため,使用が推奨されている2)。
動脈塞栓症が疑われる患者を診察した際には,症状は急速かつ不可逆に悪化するため,上記の緊急的な処置を行いながら,専門的な加療のできる施設への救急搬送が必要であると考えられる。また,整容を目的とした異物注入後合併症に対する診療は,保険適用外となる旨を患者に説明することも重要であると考える。
【文献】
1) Cohen JL, et al:Aesthet Surg J. 2015;35(7): 844-9.
2) Signorini M, et al:Plast Reconstr Surg. 2016; 137(6):961e-71e.
【解説】
岩山隆憲 神戸大学形成外科,美容外科