No.4694 (2014年04月12日発行) P.42
澤田康文 ( 東京大学大学院薬学系研究科 医薬品情報学講座教授)
玉木啓文 (NPO法人医薬品ライフタイム マネジメントセンター主任研究員)
登録日: 2016-09-08
最終更新日: 2017-04-07
サマリー
経口抗真菌薬のテルビナフィン(ラミシール1397904493など)は肝臓のCYP2D6を強力に阻害するため,主にCYP2D6で代謝される三環系抗うつ薬のアミトリプチリン(トリプタノール1397904493など)やノルトリプチリン(ノリトレン1397904493),抗精神病薬のリスペリドン(リスパダール1397904493など)などの血中濃度を上昇させ,副作用を発現させる。テルビナフィンは体内からの消失が遅く,低濃度でもCYP2D6を強く阻害するため,相互作用は服用中止後も長時間継続する。これらの主にCYP2D6で代謝される薬剤とテルビナフィンは,別の医療機関,診療科から処方されやすく,患者の副作用症状の発現により併用が発覚することもあるため,注意が必要である。
テルビナフィンは抗真菌薬であり,内服製剤は深在性皮膚真菌症に用いられるほか,爪白癬などの表在性皮膚真菌症にも用いられる。
三環系抗うつ薬であるアミトリプチリンやノルトリプチリン,そして抗精神病薬であるリスペリドンは,テルビナフィンと併用することにより血中濃度が上昇し,副作用が現れることが知られている。
この相互作用は長期間持続するという特徴があり,テルビナフィンの併用中止から数カ月経っても,アミトリプチリンやノルトリプチリンの血漿中濃度が併用前より高い値を示したという症例が報告されている1)2)。
以下に,テルビナフィンとの併用により,アミトリプチリンおよびノルトリプチリンの血漿中濃度が上昇し,めまいや倦怠感,吐き気などの副作用がみられた事例を示す。
37歳,女性。統合失調症のため3年間,アミトリプチリン75mg/日を服用しており,そのほかにオランザピン15mg/日,バルプロ酸1200mg/日を併用していた。治療中はアミトリプチリンとその活性代謝物であるノルトリプチリンの血漿中濃度の和は一定に保たれていた。その後,真菌症のためテルビナフィン250mg/日(わが国での適応用量は125mg/日)が追加投与された。テルビナフィン使用開始から1カ月後に,患者は口渇,吐き気,めまいを訴え,アミトリプチリン,ノルトリプチリンの血漿中濃度は4倍程度に上昇していた(図1)。
この血漿中濃度の上昇の原因として,アミトリプチリン,ノルトリプチリンと,テルビナフィンの薬物相互作用が考えられたため,テルビナフィンの使用を中止し,アミトリプチリンの用量を25~50mg/日に減量した。その後,アミトリプチリンとノルトリプチリンの血漿中濃度を数カ月間モニタリングしたところ,アミトリプチリンの減量はテルビナフィンの中止後3~4カ月程度必要であり,血漿中濃度が併用前の値まで低下するのに6カ月を要した。
74歳,男性。うつ病のためノルトリプチリン125mg/日を数カ月間服用しており,そのほかにシサプリド,ヒドロクロロチアジド,ラニチジンを併用していた。ノルトリプチリンの血漿中濃度は3カ月以上200ng/mLに保たれていたが,あるとき,患者がめまいや易疲労感,無気力,食欲不振を訴え,数日後には階段から転げ落ち,怪我をした。このときのノルトリプチリンの血漿中濃度は366ng/mLであり,さらに7日後には450ng/mLに上昇していた。患者は14日前に爪甲真菌症のためテルビナフィン250mg/日の服用を開始しており,テルビナフィンがノルトリプチリンの血漿中濃度を上昇させている可能性が考えられた。
テルビナフィンの投与を中止し,ノルトリプチリンの投与量を75mg/日に減量したところ,ノルトリプチリンの血漿中濃度は中止前の450ng/mLから1週間後に320ng/mL,3週間後に125ng/mLへと減少し,安定した。
ノルトリプチリンの血漿中濃度の上昇や有害症状とテルビナフィン使用の因果関係を検討するために,再度テルビナフィン250mg/日の併用を開始したところ,ノルトリプチリンの血漿中濃度は併用後4日と7日目には150ng/mLと200ng/mLへ上昇し,8日目には患者はめまいや倦怠感,眠気,頭痛を訴えた。
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