・プライマリ・ケアとは,「患者さんが病に遭遇したときに最初にかかる医療,慢性疾患患者のかかりつけの医療,さらに家族,地域を視野範囲として長いスパンで全人的に診療するもの」である。
・日本人のがん罹患数は多く,プライマリ・ケア医は,がん診療を避けて通れない。
・がんの治療は,三大療法として手術療法・放射線療法・化学療法があり,プライマリ・ケア医が携わる機会があるものは化学療法である。
・目的は,「治癒」と「延命」である。
・血液がんは化学療法のみで完全治癒をめざせるが,消化器の固形がんは化学療法のみで治癒をめざすことが難しい。
・患者が化学療法を希望した場合は,支持療法を十分に行い,患者のQOLの維持に努める。
・抗癌剤には,細胞障害性抗癌剤・内分泌療法薬・分子標的治療薬・免疫チェックポイント阻害薬がある。免疫チェックポイント阻害薬使用時には免疫関連有害事象に注意する。
・術前補助化学療法・術後補助化学療法・化学放射線療法・局所薬物療法にわかれる。
・2019年6月に「がん遺伝子パネル検査」が保険収載された。次世代シークエンサーの発展によりすべての固形腫瘍が対象になった。
・日本で承認されたがん遺伝子パネル検査には,「FoundationOne® CDxがんゲノムプロファイル」と「OncoGuideTM NCCオンコパネルシステム」「GenMineTOP®」があり,適応となる患者が決まっている。
・「悪心・嘔吐/食欲不振」「下痢」「口腔粘膜炎」「手足症候群」について解説する。
・プライマリ・ケア医が遭遇する可能性のある事例を模擬症例で解説する。
「プライマリ・ケア」という言葉は,医療者だけではなく国民の間にも広がっているが,抽象的な概念であり,イメージがつかみにくいと思われている。日本プライマリ・ケア連合学会前理事長の丸山 泉氏は,プライマリ・ケアとは,「各国の医療制度やその歴史などの背景によって異なる」と前置きをしながら,「ヘルスケアの中で特に医療を中心とするもので,患者さんが病に遭遇したときに最初にかかる医療,慢性疾患患者のかかりつけの医療,さらに家族,地域を視野範囲として長いスパンで全人的に診療するもの」と述べている1)。つまり,プライマリ・ケア医の活動の場は,総合病院(病棟),クリニック,在宅医療と幅広い領域にわたる(図1)。
国立がん研究センターのデータによると,日本人が一生のうちにがんと診断される確率(2019年のデータに基づく)は男性65.5%,女性51.2%と,2人に1人以上ががんに罹患し,日本人ががんで死亡する確率(2021年のデータに基づく)は男性26.2%,女性17.7%と男性の4人に1人,女性の6人に1人ががんで死亡する計算となる2)。米国からの報告ではあるが,プライマリ・ケア医ががん患者の治療後のフォローアップを行った場合と専門医主導で行った場合では,身体的および心理社会的転帰の管理に対する有効性に差がなく,がん患者および医療制度において医療費の節約をもたらすことが指摘されている3)。また,固形がんと診断された退役軍人の患者を対象とした,診断前5年間のプライマリ・ケア医の受診歴と,診断時のがんの転移の有無やがん特異的死亡率との関係を検討するコホート研究では,プライマリ・ケア医の受診歴がある患者は,そうでない患者と比べてがんの転移や死亡率が低いことが報告されている4)。このように,活動の幅が広いプライマリ・ケア医にとって,がん診療は避けて通れない領域であり,その果たす役割は大きい。
がんの治療は,三大療法として手術療法・放射線療法・化学療法が基本となるが5),プライマリ・ケア医が携わる機会が多いものは化学療法,そして緩和医療である。プライマリ・ケア医が治療方針の決定に直接的に関与する機会は少ないが,患者から化学療法に関することで相談を受ける状況が想定される。また,治療中には支持療法(supportive care)により,患者の生活をベースとして生活の質(quality of life:QOL)の維持・向上や,緩和医療における在宅診療を支援することが求められる。そのためプライマリ・ケア医は,がんの病態だけでなく,化学療法について基本的な知識,特に化学療法を受けている患者に対する支持療法は身につけておくべきと考える。
がん薬物療法には,細胞障害性(殺細胞性)抗癌剤,内分泌療法薬,分子標的治療薬,免疫チェックポイント阻害薬があるが,本稿では,「がん薬物療法=がん化学療法」として解説する。