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検査料金の値下げはどこまで許容されるか?【原則自由に価格設定することが可能だが,独占禁止法等に抵触しないよう注意が必要】

No.4904 (2018年04月21日発行) P.59

墨岡 亮 (仁邦法律事務所 弁護士)

蒔田 覚 (仁邦法律事務所 弁護士)

登録日: 2018-04-18

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現在,衛生検査所(いわゆる検査センター)が数多く開設されていますが,そのために,医療機関からの受託において非常に値下げ競争が厳しくなっています。たとえば「新規開業支援期間」として1年間,検査項目によって保険点数の1%の価格で契約をすることもできると聞きますが,法律的にはどこまで検査料金の値引きは許されるのか,ご教示下さい。

(東京都 M)


【回答】

まず私的自治のもと,原則として衛生検査所と医療機関との間で自由に価格を決定することができます(契約自由の原則)。医療の場合であっても,診療報酬で規定されていない部分(たとえば,自由診療等)については市場経済原理が働き,そのことは衛生検査所間の競争についても同様です。つまり,衛生検査所が各医療機関との間で,どのような条件や料金で検査を受託するかについては,個々の衛生検査所における経営的判断によることが原則となります。

しかし,市場経済をまったくの自由競争とした場合には,かえって健全で公正な競争を妨げるおそれもあります。そこで,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(独占禁止法)等で,競争方法として不公正な行為等を禁止しています。

今回,主に問題となりうるのは,「保険点数の1%」というきわめて低い価格で契約をすることが,いわゆる「不当廉売」に該当するのではないかという点です。

不当廉売は文字通り,「不当に安く売る」というものですが,独占禁止法第2条第9項第3号にて「正当な理由がないのに,商品又は役務をその供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給することであつて,他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるもの」と定義されています。

このうち,「供給に要する費用を著しく下回る対価」とは,役務を供給するにしたがってむしろ損失が拡大するような価格設定のような場合で,これは原価や人件費等から個別具体的に検討します。ご質問のように,「保険点数の1%」ということであれば,「供給に要する費用を著しく下回る対価」と判断される可能性があります。

次に,「継続して供給する」とは,「相当期間」にわたって繰り返している(あるいは,繰り返すことが客観的に予測される)ことです。そのため,短期間のサービスとして割引を行う場合には「継続して」という要件には該当しません。1年間という期間については,解釈の余地はありますが,やはり「継続して供給する」場合と評価されるおそれがあります。

そして,諸般の状況から他の事業者(必ずしも競合関係にある事業者に限りません)の事業活動が困難となる具体的な可能性がある場合には,正当な理由のない限り,不当廉売となります。他の事業者の事業活動が困難となる具体的な可能性があるか否かは,他の事業者の実際の状況のほか,廉売行為者の事業の規模および態様,廉売対象商品の数量,廉売期間,広告宣伝の状況,廉売対象商品の特性,廉売行為者の意図・目的等から総合的に判断していきます。ご質問の場合には,当該地域の状況や,受託する検査の項目,全体に占める割合などから検討することになります。

最後に,正当な理由がある場合とは,たとえば,生鮮食品を消費期限内に売却しなければならないなどの場合です。今回の場合には「正当な理由がある」とまで言うことは,難しい印象です。
さらに,こうした独占禁止法第2条第9項第3号に該当する不当廉売(これを「法定不当廉売」と言います)に該当しなくとも,公正取引委員会が指定した不公正な取引方法に該当する可能性があります。

公正取引委員会の指定する不公正な取引方法第6項においては,「法第2条第9項第3号に該当する行為のほか,不当に商品又は役務を低い対価で供給し,他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあること」とされており,法定不当廉売に該当しない場合でも,具体的な事情のもと,公正な競争秩序に悪影響を与えるときには規制の対象となりえます。

さらに,新規開業者に絞ってこうした廉売を行うことについては,特に競業他社を排除するために行われた廉売と評価される場合には,「不当に,地域又は相手方により差別的な対価をもつて,商品又は役務を継続して供給することであつて,他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるもの」として,独占禁止法第2条第9項第2号に言う,差別的対価等に該当すると評価される可能性があります。

そのほかにも,衛生検査所に関しては,衛生検査所業公正取引協議会(景品表示法に基づいて設立された業界団体)が定めた「衛生検査所業における景品類の提供の制限に関する公正競争規約」があります。この規約では,顧客誘引手段として,景品類の提供を行うことを原則として禁止していますので,この点にもご注意下さい。

このように,契約が自由にできるといっても,公正な競争を行うために規制があります。キャンペーン等の実施の際にはこれらの規制には気をつけて下さい。

なお,予定されているキャンペーン等が適切なものか否かについては,弁護士に相談をするほか,公正取引委員会が相談窓口を設けていますので,こうした窓口を利用されるとよいでしょう。

【回答者】

墨岡 亮 仁邦法律事務所 弁護士

蒔田 覚 仁邦法律事務所 弁護士

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