医療用エコー(超音波画像診断装置)は、イメージング機能の進化などハイスペック化が進み、臨床現場での重要性が高まっている。中でもポータブルエコーは、高画質でありながら小型化や操作性の向上を実現。超音波を専門としない臨床医への普及が期待されている。身体観察の延長としてポータブルエコーを駆使するクリニックの事例から、患者のアウトカム向上につながる活用法を探ってみたい。【毎月第3週号に掲載】
沖縄県宮古島市と神奈川県鎌倉市で在宅医療をメインに提供する「ドクターゴン診療所」を経営する医療法人鳥伝白川会の泰川恵吾理事長は、訪問診療やプライマリケアといった簡易診断が求められる場面でポータブルエコーを活用している。
「ポータブルエコーは診察しながらリアルタイムで体の中が見えるので、理学所見で『こうかな』と当たりをつけた判断が適切だったのかがすぐに分かります。特に高齢者の患者さんでは聴診器や触診による見立てが外れてしまうことも少なくありません。正確な診断ではなく、“迅速な判断”をするための重要なツールとして、ポータブルエコーは日々の診療に欠かせない存在です。往診時は必ずポケットに入れて患家に向かうようにしています」(泰川さん)
泰川さんが使用しているのは、GEヘルスケア・ ジャパンのポータブルエコー「Vscan Dual Probe」(http://gecommunity.on.arena.ne.jp/Vscan/dp/)。プローブ部分が129mmとコンパクトながら、リニアとセクタによる描出が可能で、カラードプラ機能も搭載している。
「Vscan Dual Probeの特徴は、余分な機能を削ぎ落としているので、使い勝手が良いところです。大型機種のエコーが持っている機能をフルに使いこなせる先生はほとんどいないでしょう。その点Vscanは必要な機能に絞られているためボタン類が少なく、片手で扱えるほど操作性に優れています。難しい設定をする必要もなく、スイッチを入れればすぐに使えるという点も在宅医療の現場では重要になります。聴診器の延長線上で超音波検査をしているイメージです」(泰川さん)
Vscanシリーズにはさらに高画質化したスマートフォンタイプのタッチパネル式画面を搭載した「Vscan Extend」という機種もラインアップされており、用途や嗜好によって選択することができる。
泰川さんが日々の診療でポータブルエコーの効果を特に実感するのは、高齢者の発熱と呼吸不全のケースだという。発熱については「高齢者の場合は末期がんなのか、それとも膀胱炎や肺炎、腎盂腎炎、胆嚢炎といった感染症によるものなのか、原因を探ります。感染症はエコーを当てればすぐに分かるので、緊急手術や抗生物質が必要かどうか、抗生物質が必要な場合は適切な種類の判断まで、その場でつけることができます。エコーで異常が見つからない場合に疑うのは電解質異常。これはエコーでは分かりませんが、消去法で診断を導きます」といったプロセスで、5分以内に診断をつけている。泰川さんは白血球をその場で検査できるデバイスも持っているが、採血には時間がかかる上に患家のベッドサイドは照明が暗いことも多いため、悪条件に強いポータブルエコーをメインに活用。それに伴いX線の使用回数が大きく減ったという。
一方の呼吸不全については、まず心不全かどうかの判別が重要になる。「症状だけで喘息と心不全を判別することは難しい。普段から診ている患者さんでない場合はなおさらです。エコーを使えば、例えば30%程度にEF(左室収縮能)が低下していることが分かり(Case①)、心不全であると確認できます。EFに25%と35%の差があったとしても、利尿剤や強心剤の投与など治療方針に大きな違いはないので目分量で大丈夫です。心臓弁がどの程度開いているかまでは分かりませんが、これも印象で構いません。そうした データが本当に必要になるのは入院してからのことです。肺の水分量や血管の緊満なども分かるので、ポータブルエコーによる所見は専門医の先生との連携においてもとても役に立つと思います」(泰川さん)
これまで超音波検査は、超音波専門医や超音波検査技師といったトレーニングを受けた専門家が主に担ってきた。操作や画像の読み取りには高度なスキルやノウハウが要求され、非専門医の一般開業医には1つのハードルになっている。
この点について泰川さんは、「プローブが小さいので遠くのものは拡大して見えるなど、押さえるべきポイントはありますが、きれいな画像を描出しようと難しく考える必要はありません。聴診器のように直感的に使えるというポータブルエコーの特徴を生かしてほしい」と強調。大型機種とは違う使い方として「UB-FAST」を提唱している。
Uはurinary system、Bはbile duct、FASTは救急医療のFocused Assessment with Sonography for Traumaをそれぞれ指し、泌尿器系(特に膀胱と尿路)、胆管系、腹腔内と胸腔内をまず確認するという考え方だ。診療現場ではポイントを絞ったPOCUS(Point-of-care Ultrasound)の普及が進んでいるが、在宅やプライマリケアの場面ではさらに限定し、決めたポイントのみを迅速に診ることが重要になる。
Case②は、腹部痛を訴えていた患者の症例。膀胱を描出すると、尿閉による膀胱炎であることが確認できたため、導尿して改善した。
「寝たきりの高齢者や意識がなくなった患者さんなどコミュニケーションを取ることが難しいケースは少なくありません。また一旦症状が収まってもその後に急変するということもあります。こうした場合でもポイントを絞ってエコーを当てれば、問診や聴診、触診では掴めない情報を得ることができ、効果的な初期治療が行えます。ポータブルエコーはエコーが得意でなくても構いません。非専門医の先生にもどんどん取り組んでもらい、日常的に活用してほしいですね」(泰川さん)