(京都府 K)
鎮痛薬や片頭痛治療薬の乱用が原因で頭痛が発生するメカニズムは,正確にはわかっていませんが,これらの治療薬を中止することで頭痛が元の状態に戻る,改善する,もしくは消失したというエビデンスの蓄積があり,この頭痛は「国際頭痛分類 第3版 beta版」の「二次性頭痛」の中に分類されています1)2)。
診断基準に定められた「月の服薬日数」に患者が当てはまるかどうかを判断することは,さほど重要ではなく,本人が実際に服用している日数,薬の種類・量を正確に知ることのほうが大切です。そのためには,前向きに頭痛ダイアリーを記載してもらう必要があります。服薬前の痛みがどの程度あったのか,なかったのか,服薬によって鎮痛効果が得られたのか,得られなかったのかを細かく記載してもらい,診察時に確認します。大きく2つにわけられます。
①しっかりとした頭痛があり,頭痛時のみに服薬して効果が得られたと自覚している場合には,それが乱用の診断基準を満たす日数になっていたとしても,「我慢するように」と緊急に服薬中止を指導する必要はないと思われます。予防療法の早期開始,月経や天候との関係を調べ,頭痛誘発因子の除去を指導しながら,数カ月〜1年かけて頭痛日数の減少をめざします。もともと一次性頭痛を持つ患者であるため,季節の変わり目や,月経期間,新年度,寝不足時は頭痛頻度が高いのは当たり前として,患者の話を傾聴し,共感し,助言することは,患者にとっても頭痛時には薬を飲んでいいと安心できるので,むやみに薬を服用することもなく,乱用を予防する効果もあります。
②問題は,頭痛がないのにもかかわらず薬を朝・昼・夕に連用する,効果はないとわかっているのに服薬しないと気持ちが落ち着かない,薬の量が徐々に増えて通常の倍以上服薬しているのに頭痛がよくならないというような患者の場合です。これは,薬剤耐性・依存との関係があるかもしれません。単純な乱用の患者であれば助言だけでも効果はありますし,原因薬剤の中止で頭痛がよくなる人もいます。多種・多剤を服用している,長期的に乱用しているような患者の場合には難治例になることがあります。
対応法の例を挙げますと,前者の治療法のほか,不安で服薬してしまう人には,時間で服薬せずに痛みが出たら服薬するよう説明し,頓用にします。多種併用している場合には,効果がないとはっきりわかっている薬剤であれば,本人と相談の上で中止し,少しでも効果がある薬剤だけに徐々にまとめてシンプルにします。
そのほかに注意する点は,痛みに関連する社会的・心理的背景(たとえば,交通事故,仕事のトラブル,人間関係,不眠,うつなど)があれば,専門領域の診療科に併診してもらうのも手です。いくつかの医療機関を受診し,乱用をすぐにやめるよう言われ続ければ,いつしか患者は受診しなくなり,ドラッグストアを何店舗もはしごし,インターネットで購入して,種類の異なる鎮痛薬を大量に手に入れることも考えられます。医師は,治療のチャンスを逃さないようにしなければなりません。
治療に最も重要なのは,正確にダイアリーを記載してもらい,服薬日数が多いときには一緒に悩み,原因を探り,根気よく励まし,長期的に継続的な通院をしてもらうことなのかもしれません。
【文献】
1) 渡邉由佳, 他:診断と治療. 2016;104(7):863-8.
2) 五十嵐久佳, 他:国際頭痛分類. 第3版 beta版. 日本頭痛学会・国際頭痛分類委員会, 訳. 医学書院, 2014, p97-113.
【回答者】
渡邉由佳 獨協医科大学日光医療センター神経内科准教授
平田幸一 獨協医科大学神経内科教授