学生時代にOSCEの医療面接で学んだ通りの紋切り型では,必ずしも患者さんとの良好な関係を築けるとは限りません。ある程度経験年数が増えてくると自然と身についてくるものですが,それでも患者さんとのコミュニケーションをとるのが上手な医師とそうでない医師がいるのも事実です。若いうちにいろいろな先輩医師の問診につかせて頂いて自分なりのスタイルを見つけていくとよいでしょう。
ここでは一般内科外来での初診を想定します。私の場合,初診時には時間を掛けてでも,できるだけ多くの患者情報を得て,コミュニケーションを図るように努めています。軽く笑顔で「お待たせしてごめんなさいね」と,雰囲気をほぐしながら患者さんの表情を読み取り,「どうぞ椅子にお掛け下さい。今日はどうしました?」と,アイコンタクトをとりつつまずは訴えをよく聞きます。患者さんは自分の訴えを診断のきっかけにしてもらうつもりで受診しているのですから,「なるほど…」と自然な相づちとともに,話の内容に同調してこちらの表情も明るくしたり暗くしたりして聞きましょう。そのうちに患者さんが徐々に心を開いてくるのがわかるはずです。訴えの軌道修正,あるいは誘導など面倒な場面もありますが,「これが自分あるいは自分の家族だったら」と考えることでネガティブな感情は抑えられます。こうして訴えを十分に聞いた上で,患者さんのプライバシーに関わる病歴,すなわち,既往歴,家族歴や家族構成,生活歴を聴取します。問診時には基本笑顔ですが,もちろん覚醒剤使用歴や刺青歴,家族構成を聞いた際の離婚歴などについては,客観的に把握する冷静さが求められますし,同性愛を含めて性行為についても笑顔で聞くべきではありません。問診の最後に,「さあ,これであなたのことがよくわかりましたよ」と付け加えることで,患者さんは安心感もしくは医師との一体感をいっそう強く抱くようです。
このように,初診時の問診の際に,十分な時間を掛けて患者さんの訴えを共有するとともにコミュニケーションを図っておくと,以後の身体診察,検査,そして診断から治療に至るまでの一連の診療が非常に円滑となることうけあいです。ぜひ,忙しい中でも初診時の問診を大切にして欲しいと思います。なお,それでも1~2年に一度くらい,どうしても良好な関係が築けない患者さんがいることを自白しておきます。