□肺炎は,優れた抗菌薬の出現にもかかわらず死因の第4位を占め,死亡例の主体は高齢者である。そのため,高齢者の肺炎の在宅管理はきわめて重要である。
□高齢者の肺炎では,発熱,咳,痰などの肺炎症状が乏しく非典型的なため,診断が遅れることがある。
□高齢者の在宅における肺炎は市中肺炎に位置づけられるが,その多くは医療・介護関連肺炎(nursing and healthcare-associated pneumonia:NHCAP)である。そのため,誤嚥性肺炎や耐性菌の頻度が高い。表1 1)にNHCAPの定義を示した。在宅におけるNHCAPは表1 1)の2~4が相当する。
□肺炎のリスクが高い症例では,肺炎の発症予防の対策をとることが重要である。
□高齢者の肺炎では,発熱,咳,痰などの肺炎症状が乏しく,発熱をきたさないことも多い。食欲不振,全身倦怠感,意識障害などの全身症状が全面に出る場合もあり,肺炎症状に乏しくてもこれらの症状があるときには肺炎を疑うことが重要である。
□誤嚥の有無を確認する。誤嚥を頻回にきたしている,脳梗塞など誤嚥をきたしやすい基礎疾患を有するなどの場合には,誤嚥性肺炎を疑う。
□在宅では胸部X線検査を実施することは困難である。発熱,脈拍数,呼吸数を注意深く観察するのに加え,詳細に聴診を行う。寝たきりの高齢者では背部に肺炎をきたすので,背部の聴診が重要である。
□発熱,膿性喀痰,水泡音(coarse crackles)を聴取,炎症反応(末梢血の白血球数,CRP高値)があれば肺炎の可能性が高い。
□経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)は,呼吸不全の合併の有無の評価に有用である。
□肺炎と診断された場合,起炎菌同定のために喀痰検査を実施するが,同定までに日数を要するので,肺炎球菌抗原(尿,喀痰),尿中レジオネラ抗原,マイコプラズマ抗原(咽頭拭い液)などの迅速検査でできる限り起炎菌の同定を行う。
□高齢者の場合,肺炎と診断された症例の中に肺結核が混在していることがある。肺炎の改善が乏しい場合,喀痰抗酸菌検査(塗抹,培養,結核菌PCR検査)を実施する。
□高齢者の在宅における肺炎の多くはNHCAPであり,誤嚥性肺炎や耐性菌の頻度が高いため,NHCAPをターゲットとした治療戦略を立てることが重要である。
□肺炎と診断されたら重症度を評価し,在宅治療か入院治療かを決定する。市中肺炎の評価にはA-DROPシステムが用いられる(表2)2)。軽症が在宅治療,中等症は在宅または入院治療,重症は入院治療,超重症はICU入院とされているが,実際には症例ごとに評価を行う。
□特にNHCAPでは肺炎重症度を判断した上で,基礎疾患や合併症,栄養状態,精神的・身体活動性,介護の状況などの社会的状況を勘案して入院の適応を決定する。
□細菌性肺炎か,マイコプラズマやクラミジアなどの非定型肺炎かで抗菌薬の選択は異なる。両者の鑑別は表3 2)に基づいて実施することが推奨されているが,NHCAPでは施設内集団発生などの特殊な環境下以外では非定型肺炎は稀とされている。
□高齢者では肺炎を生じると予後不良のことが多く,肺炎を予防する戦略を講じることが重要である。
□在宅では胸部X線検査を実施することは困難であるので,発熱,脈拍数,呼吸数などのバイタルサインやSpO2の推移に注意する。特に発熱がある場合,解熱傾向は炎症所見の改善に先立ってみられることが多く,治療効果の判定に有用である。
□治療開始72時間後に治療効果判定を行う。判定には在宅でも可能な限り炎症反応(末梢血の白血球数,CRP)を評価する。
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