□肺吸虫症は代表的な食品由来の寄生虫疾患で,国内感染であればウエステルマン肺吸虫あるいは宮崎肺吸虫,インドシナ半島での感染ではヒロクチ肺吸虫が原因になる。
□感染源は加熱不十分な淡水産のカニ(モクズガニやサワガニ)もしくはイノシシ肉で,食品とともに取り込まれた感染型の幼虫(メタセルカリア)は体内移行後,最終的に肺で成熟する。
□虫体周囲の好酸球性炎症が病態の基本で,著明な末梢血好酸球増多を伴う。
□患者は九州や中部地方の中高年の男性に多いが,大都市圏でも比較的若い外国人女性(タイ,中国,韓国出身)の患者がみられる。
□肺吸虫症の病態:肺吸虫は感染型の幼虫(メタセルカリア)が経口摂取されてから肺に到達するまでに,まず小腸内から腹腔に出て腹壁筋内に侵入して発育し,再び腹腔に現れ,横隔膜を通り抜けて胸腔に入る。そして胸膜から肺実質に侵入して成熟し,産卵する。症状は以上の移行経路に沿って出現する。肺実質に達するには,感染してから3~4週間,肺内で成熟して産卵を開始するにはさらに4~8週を要する。自覚症状が何もないことがあり,定期健康診断や別の病気のフォローアップで偶然見つかることも少なくない。
□腹部症状:感染初期に下痢・腹痛などの腹部症状を訴えることがあるが,まだ抗体の上昇前であるため,明らかな食歴がある場合でも,この段階での診断は困難である。
□移動性皮下腫瘤:メタセルカリアは腸管から腹腔に出たあと筋肉内などを移行するため,時に移動性皮下腫瘤を形成することがある(数%程度)1)。初診時の主訴が頭痛や腹部腫瘤で,経過とともに胸水が貯留してきたという例も知られている。
□胸部症状:発熱や全身倦怠感が出現し,胸膜炎による胸痛,背部痛,胸水貯留による呼吸困難がみられうる。肺実質での病変は,咳嗽,喀痰,血痰などを引き起こす。自覚症状で多いのは,咳嗽や痰,血痰で,血痰は約30%の頻度でみられる2)。
□末梢血液像:ほぼ全例で好酸球増多がみられる。末梢血好酸球は平均で約20%に達し,50%あるいは70%ということもある。一方,慢性例では好酸球増多がみられないこともある。血清総IgEもおおむね上昇する2)。
□胸部画像:病理学的には胸膜および肺実質の好酸球性炎症で,胸水貯留,気胸,結節影,空洞影,浸潤影などを中心に,多彩な胸部画像所見を示す3)。最も多いのが胸水貯留で,約70%の症例にみられる。気胸は1/4程度の頻度でみられ,気胸と胸水の両方がある例もしばしば存在する。肺吸虫症では,時に大量の胸水貯留がみられ,量が多い割に症状に乏しい。肺吸虫症に典型的とされる結節影・腫瘤影も半数以上にみられるが,空洞影は数%にすぎない。FDG-PETを施行した場合には,虫体を中心とした炎症巣にFDGが集積し,画像所見は肺悪性腫瘍と酷似する。
□胸水・気管支肺胞洗浄液顕微鏡検査:宿主由来の細胞では,好酸球が主体となり,細胞の90%を占めることもある。時に虫卵が検出されることがあり,確定診断となる。
□便検査:肺吸虫症で便検査が実施されている割合は不明だが,少なくとも国内では虫卵が糞便中に出てくるほどの重症例は,今日では存在しないと考えてよい。
□抗寄生虫抗体検査:虫卵が検出される場合を除き,肺吸虫症の診断において最も価値が高いのは,抗体検査である。肺吸虫感染は強力に抗体応答を誘導するので,感染早期を除いて抗体検査で見逃すことはほとんどない。仮に陰性であっても,病歴や食歴から肺吸虫症が疑われるときは再検査するべきである。血清や胸水の抗体検査は,エスアールエル社やいくつかの大学の寄生虫学研究室で可能である。宮崎大学医学部感染症学講座寄生虫学分野でも肺吸虫症を含む寄生虫疾患に関する相談と血清診断に応じている。
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