眼科は他科ドクターから見るとブラックボックスのような世界らしく,色々な器械による検査をしないと何もわからないように見えるようです。とは言うものの,私が医者になった頃には細隙灯(スリットと呼ばれている,診察室に必ずある器械です)がない眼科もあったのです(何年医者やってるんだ!と驚かれそうですが,平成の初めはそうだったのですよ,本当に)。なので,問診と肉眼でも,ある程度のことはわかると言えます。もちろん各種検査が進化し新しいこともどんどんわかってきており,それだけに眼科が専門化しているわけですが,少なくとも「これは眼科疾患だ」「救急と思われる」ということは,眼科以外でも,そして細隙灯がなくてもわかるはずです。
本書執筆にあたっては,訓練を積まずに,お金もかけないで(高額な機器を買わない,という意味です),眼科に紹介するタイミングを見つける,あるいは自分でなんとか診療する,ということができるような内容にしています。そして症候から診断がつくような流れを作っていますので,目の前に患者さんが来てから慌てて読んでもなんとかなるはずです(なんとかして下さいね!)。
本来この教科書は眼科以外のドクター向けに書きましたが,もし眼科に進もうという方が手に取ってくれたのであれば,初めて外来に出たときの戸惑いを今でも思い出せる私からのメッセージとなるでしょう。一般的な眼科の教科書では解剖から始まり各論では部位別疾患の説明が載っていますが,目の前の患者さんの訴えがどこに相当するのかわからないことも多いと思います。どの教科書を読めば良いのか,そしてどう考えても教科書の厚みを見ると明日の診療に間に合わない!というときの助けになるような入門編として使って下さい。通常の教科書とは異なるアプローチになっています。
日常診療では,問診,検査結果,診察,という内容を総合して診断していますが,今回の執筆はその眼科診療という過程を新たな面から見直す作業となり(疾患を裏返してみるような感覚でした),非常に楽しかったです。その結果できあがったものが皆様のお役に立てばとても嬉しいので,ぜひ読んでみて下さい。
2019年2月 著者