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三叉神経痛×(カルバマゼピン+五苓散)[漢方スッキリ方程式(90)]

No.5238 (2024年09月14日発行) P.14

木村哲朗 (浜松医科大学医学部附属病院 麻酔科蘇生科講師)

登録日: 2024-09-11

最終更新日: 2024-09-11

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三叉神経痛では,発作性の鋭い痛みが三叉神経の支配領域で生じ,耐え難い激痛となることが多い。痛みは基本的に発作時にのみ現れ,例えば歯磨きや洗顔,咀嚼などの物理的刺激や寒冷が誘因となる。

病因によって特発性三叉神経痛(血管圧迫によるもの)と症候性三叉神経痛(腫瘍などによるもの)に分類される。特発性三叉神経痛では,小脳橋角部より出た三叉神経のroot entry zone付近を蛇行する血管による圧迫とそれによる脱髄,髄鞘欠落により易刺激性が高まり,三叉神経の活動電位の漏れが激しい痛みを生じると考えられている。特に中高年の女性に多く見られ,第Ⅱ,Ⅲ枝に発生しやすい。

薬物療法は侵襲が少なく,第一選択となる。手術療法,放射線療法,神経ブロックが施行できない場合や症状再燃時にも薬物投与が行われる。第一選択薬はカルバマゼピンで,number needed to treat(NNT)は1.7である1)。しかし,眠気,めまいなどの軽度なものから,骨髄抑制や時に重篤となる皮膚症状などの副作用のために,減量や休薬せざるを得ないことがある。このような場合に漢方薬の併用でカルバマゼピンを減量できる場合がある。

柴胡桂枝湯,桂枝加朮附湯と使い分け

山口は,1993年からの25年間に三叉神経痛に漢方治療が行われた25論文,183症例について漢方治療の効果を検討した2)。使用された漢方の内訳は,五苓散系(五苓散,柴苓湯,五苓散加味方)81症例(44.3%),柴胡桂枝湯類(柴胡桂枝湯,小柴胡湯合桂枝加芍薬湯)74症例(40.4%),桂枝加朮附湯10症例(5.5%),その他8方剤18症例(9.8%)だった。カルバマゼピンの減量か痛み指標の50%以上軽減したものを有効として,漢方の有効率は73.2%だった。

五苓散は,桂皮のサイトカイン過剰産生抑制による抗炎症作用,茯苓,朮,沢瀉,猪苓の細胞膜水チャネルであるアクアポリンを介した利水作用を有する。神経周囲の浮腫軽減に効果がある。柴胡桂枝湯は,痙攣,てんかんで使用されることがある。疼痛閾値が上昇し,神経損傷時のアロディニア,痛覚過敏に有効との報告がある3)桂枝加朮附湯は,桂枝湯に利水作用のある朮と熱性薬で鎮痛効果のある附子が加わり,寒虚・湿証に用いる。桂皮による抗炎症作用,芍薬,甘草,桂皮などの鎮痙作用で効果を発揮する。末梢循環不全による局所の冷えと神経周囲の浮腫による痺れを伴う痛みを改善する。

五苓散は歯痕舌や浮腫など,水滞を伴う場合に処方する。水滞に冷えを伴う場合は桂枝加朮附湯,それ以外でストレスの関与が想定される場合は柴胡桂枝湯を考慮するとよい。状況により,これらの併用が有効な症例も経験する。

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