日本循環器学会から「心房細動治療(薬物)ガイドライン(2013年改訂版)」が同学会のウェブサイトにて公開された。
一般論として,診療ガイドラインは臨床的エビデンスに基づいて作成される。臨床的エビデンスとして,専門家の経験などよりも科学的にデザインされた臨床試験の結果を重視する(臨床試験の結果に基づいた医療による予後が,専門家の経験に基づいた医療による予後に勝るか否かは不明であるが)。ランダム化比較試験では,臨床的仮説の正否が科学的に検証される。仮説の検証には疫学的方法を用いる。患者集団を構成する個人は均質であることが前提とされる。
臨床医は個別症例の診療過程において,個人差を認識して診療する。EBMの世界では個人差は考慮されない。臨床的仮説を検証した患者集団と,個々の臨床医の個別症例の差異にばらつきが少ない疾病では,EBMの世界と個別症例との乖離が小さい。
肺癌であれば,組織型の差異はあっても,がんの増殖・進展抑制を予後改善のエンドポイントとしたエビデンスの個別症例への適用には矛盾を感じない。これは,肺癌の症例一般ががんの増殖・進展抑制による予後改善を望んでいるためである。しかし,心房細動は肺癌とは異なる。肺癌が明確に疾病であるのに対して,加齢とともに有病率が高くなる心房細動には老化現象の側面もある。
ガイドラインでは抗血栓療法が重視されている。抗血栓療法により予防が期待できる,血栓イベントの視点から見た心房細動の不均一性は大である。肺癌の自然歴としては,ほぼすべての症例で,無治療であれば2年後には,がんの増殖,全身への進展を認めるであろう。しかし,血栓イベントから見た心房細動の自然歴としては,無治療により2年後に血栓イベントを発症する症例は少ない1)~3)。心房細動という疾病に対して,血栓イベント予防の観点から画一的にランダム化比較試験のエビデンスを適用することは困難であると筆者は考える。
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