低Na血症はNa欠乏とは限らず,むしろ浮腫性疾患に伴ってNaの体内総量が過剰になっていることのほうが多い。そのときには細胞外液量を判断して,低Na血症の原因の鑑別を行う。重症の低Na血症の治療は3%NaClを用いて行うが,急速な補正による浸透圧性脱髄症候群(ODS)には注意が必要である。緊急治療以外は低Na血症の原因に基づいて治療を行う。
低Na血症は血清Na濃度が135mEq/L以下の状態を言い,電解質異常で最も頻度が高く,Na不足と勘違いされやすいが,実際は,体液量が増えているために低Na血症になっている場合のほうが多い。血清Na濃度は,(Naの体内総量)/(体液量)であるからNaの体内総量が減少しても体液量が増加しても低Na血症になる。
低Na血症の病態は,次の3つに分けて考えるとよい(図1)1)。
水もNaも増えているが,より水が増えているようなパターンである。肝硬変,心不全,腎不全,ネフローゼ症候群などの,浮腫性疾患でみられる。この場合,Naの体内総量は増えているため,低Na血症だからといってNaを投与すると事態が悪化する。このような場合の治療は,水とNaの制限,利尿薬の投与になる。
Naの体内総量は正常でも,水が増えれば低Na血症になる。水だけを大量に投与された場合(水中毒など),低張輸液を続けている場合,抗利尿ホルモン(antidiuretic hormone:ADH)が不適切に分泌されて,水だけが再吸収されるようなADH分泌異常症(syndrome of inappropriate secretion of antidiuretic hormone:SIADH)の場合などである。これらの状態では,体液量がやや増加(プラス10%以内)の低Na血症となる。治療の基本は水制限であり,SIADHの場合にはADHの作用を特異的に抑えるバソプレシン受容体拮抗薬の投与が理にかなっているが,現在日本での保険適用は限られている。
Na量が減少した低Na血症が体液量減少型である。Naの喪失とともに水も喪失するが,よりNaの喪失が優位なため低Na血症になる。Naが体のどこかから失われていくのだが,最も多いのは腎臓である。腎臓以外では,消化管(下痢,嘔吐),サードスペースへの喪失がある。このようにNaを喪失して低Na血症になる頻度は実際には高くない。治療はNaの補充である。
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前述したように低Na血症といっても,病態によって治療が異なるため,それぞれの病態を見わけなければいけない。残念ながら体内のNa総量を知ることはできないが,水の量(細胞外液量)の推定はできるので,細胞外液量を推定して前述した3つのパターンのいずれかを判断することが重要になる。しかし,細胞外液量の推定は容易ではない。脱水や浮腫のように極端な症状がみられる場合を除いて,細胞外液量が正常かどうかを判断するのは実際には困難である。細胞外液量を推定する身体所見には,体重の変化,起立性低血圧,浮腫,口腔粘膜の乾燥,腋窩の乾燥,毛細血管再充満時間の延長などがあるが,1つの身体所見だけでは判断が難しい。臨床経過と各種身体所見の組み合わせ,エコーによる下大静脈径,場合によっては,輸液負荷に対する反応などから判断する。
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