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「認知症鉄道事故裁判」をどう活かす[長尾和宏の町医者で行こう!!(86)]

No.4911 (2018年06月09日発行) P.24

長尾和宏 (長尾クリニック院長)

登録日: 2018-06-11

最終更新日: 2018-06-07

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11年前の認知症鉄道事故裁判

認知症の人が誤って線路内に入り列車にはねられ死亡した事故を覚えておられるだろうか。2007年12月7日、愛知県大府市で要介護4の認知症の男性(当時91歳)が妻(当時85歳)が数分間目を離した隙に外出して列車にはねられ死亡した。大府市といえば認知症の研究機関である国立長寿医療研究センターがある所だ。実は十数年前、私が在宅で診ていた認知症の男性もこの事故とまったく同様の事故で亡くなられた。しかしその時は事件にならなかった。一方、大府市の事故ではJR東海が家族に損害賠償請求を起こし、一審・名古屋地裁、二審・名古屋高裁ともに家族の監督責任を認めた。一審では同居の妻と、離れて暮らす長男の賠償責任を、二審では同居の妻の賠償責任を求めた。しかし2016年、最高裁は家族は監督義務者に当たらず賠償責任はないとして、JR東海が逆転敗訴した。

もしも最高裁も家族に賠償責任を求めたならば、どうなっていたか。認知症の人は早々に在宅療養を諦めて施設入所させよ、となっていたかもしれない。あるいは自宅や施設内での監視強化の方向に向かい、「閉じ込め型介護」が加速したはずだ。一方、介護訴訟を恐れるあまり拘束だらけになっている施設もある。こうした「牢屋型介護」がどれだけ患者さんの尊厳を奪っているのか。だから最高裁判決は大きな意味があった。「閉じ込める」という行為は、「認知症の人を地域で見守る」という地域包括ケアや新オレンジプランの考え方と矛盾している。

市民フォーラムで長男が講演

去る5月11〜12日に尼崎市で認知症フォーラムを開催した。今回は2日間連続の企画とし、「認知症事故」「マニュアルのない認知症ケア」「認知症当事者からの発信」を三本柱に据え、全国各地で評判になっている映画「ケアニン」の上映も行った。

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