ファンクショナルMRIの世界的権威で、複雑系科学の専門家としても幅広く活躍した脳神経学者の中田力さん(新潟大名誉教授、カリフォルニア大名誉教授)が7月1日、米サンフランシスコで逝去した。享年68歳。
中田さんは1950年東京生まれ、76年東大医学部卒。78年に渡米し、92年カリフォルニア大脳神経学教授に就任。96年に研究拠点を日本に移し、2002年から新潟大脳研究所の統合脳機能研究センター長を務めた。著書に『アメリカ臨床医物語』『脳のなかの水分子』(ともに紀伊國屋書店)、『穆如清風(おだやかなることきよきかぜのごとし)─複雑系と医療の原点』(日本医事新報社)など。
日本医事新報誌上では「フィロソフィア・メディカ—複雑系科学入門」(2009〜2010年)、「フィロソフィア・メディカ2—医療と人類」(2016〜2018年)を連載。複雑系科学の観点から医療の原点を問い直し、悲劇的状況に突入しているかに見える世界で現場の「心ある」臨床医が果たすべき役割を発信し続けた。
本誌が連載を依頼するきっかけとなったのは、「人」欄の取材だった。新潟大統合脳機能研究センターでの中田さんへのインタビューは5時間近くに及び、その間、諸科学にわたる膨大な知識量と米国医療現場での豊富な臨床経験に基づく独自の思想・理論の展開にひたすら圧倒された。これはとても1ページの「人」の枠には収まらないと思い、記事掲載後、中田さんの医学・医療への思いを直接読者に届けてほしいと依頼し、「フィロソフィア」の連載が始まることとなった。
中田さんの多面的でダイナミックな人生を要約するのは今も難しい。5時間近くの話をなんとかまとめて寛大な中田先生に一応の合格点をいただき、連載開始のきっかけとなった日本医事新報2009年2月28日号の「人」をここに再録し、追悼文にかえたい。