免疫チェックポイント阻害薬は,がん免疫システムの賦活化により抗がん作用を示す。副作用も従来の抗癌剤と異なり,免疫システムを介した自己免疫性疾患類似病態を示す
頻度が高い副作用は皮膚障害や甲状腺障害であり,日常生活に影響が多いものは肺臓炎や大腸炎である。いずれも軽症なものから重篤なものまで症状は様々である。免疫チェックポイント阻害薬を中止後数カ月以上その影響が続くことがある
治療には皮膚や消化器,肺の炎症に対しては,抗炎症薬として主に副腎皮質ホルモンを用いることが多いが,代謝内分泌系では直ちにホルモン補充を検討する
副作用が強いと効果も強いとする報告があり,副作用は免疫賦活化の指標とする見方もできる。早期に発見,介入し重篤化する前に管理し,薬物療法の効果を最大限引き出すことが必要となっている
免疫チェックポイントは免疫反応の恒常性維持に関与しており,自己抗原に対する末梢性免疫寛容の成立と,その破綻の結果生じる自己免疫疾患の発症に深く関わっている。そのため,cytotoxic T-lymphocyte antigen 4(CTLA-4)やprogrammed cell death-1 ligand-1(PD-L1)などのco-inhibitory moleculeを阻害する免疫チェックポイント阻害薬では,免疫調節が正常に機能せず,既知の自己免疫疾患や炎症性疾患類似の有害反応が出ることがあり,免疫関連有害事象(immune related adverse event:irAE)と総称される。irAEは主にT細胞が関与するが,抗体を産生するB細胞や炎症性サイトカインを産生するマクロファージや顆粒球も関与すると考えられている。
irAEは全身の臓器に起こる(表1)。さらに多くの薬剤の開発,一般臨床での使用に伴い,新しいirAEが報告されている。
従来の細胞傷害性(殺細胞性)抗癌剤や分子標的薬に対する対処法とは異なり,irAEに対する治療は副腎皮質ホルモン剤などの免疫抑制薬が中心であるが,代謝内分泌臓器障害によるホルモン産生障害に対しては,補充療法を行う。
irAEの呼称には既知の自己免疫疾患・炎症性疾患名が用いられることがあるが,それぞれの疾患病態とirAEの病態は同一ではなく,診断・治療法に関し一定の差異が存在する。自己免疫疾患に対する治療方針をそのまま応用することなく,各薬剤ごとのirAEに対するガイダンス等を参考にして治療にあたることが重要である。
irAEは,免疫チェックポイント阻害薬単剤治療よりも抗体薬の併用療法や,細胞傷害性抗癌剤,分子標的薬との併用でその頻度やバリエーション,重篤度が増す傾向にある。免疫チェックポイント阻害薬中止後の一定期間に,他の薬剤治療をするとその副作用が増す可能性もあり,逐次治療を行う際にも留意が必要である。
irAE早期の症状や所見は非特異的なものが多く,その拾い上げや初期の検査オーダーには,従来の有害事象対応アルゴリズムでは対応困難なものも多い。多岐にわたる臓器障害とそれぞれの症状,所見についての理解を深め,早期対応をスムーズに行うために,医師,薬剤師,看護師それぞれの特徴を活かしチーム内での情報共有をするシステムづくりが不可欠である。以下に臓器ごとの障害の概要について記載するが,それぞれの診断,治療においては,常に重症化,遷延化するリスクを念頭に置いて,各有害事象に経験のある専門家,診療科へのコンサルテーションを行うことが最も重要である。