(岐阜県 K)
梅毒トレポネーマの全ゲノム解析の結果がScienceに載ったのが1998年,以後20年を経ても有望なワクチンの話を聞かないこと,また,実際の臨床で何回も感染する人がいることから,完全な防御抗体(免疫)はできないと推測されます。
性感染症の中でも,クラミジア感染症のように治療期間が1日~1週間と短い感染症と異なり,治療期間が比較的長い(AMPC 1回500mg×1日3回内服を4週間)ので,その間に相手も治療介入を受けている可能性が高く,ピンポン感染は想定しづらいと考えていましたが,実際に次のような症例(男女カップル:AとB)を経験しました。
AがBとは別の相手から感染し,硬性下疳発症。BはAとの最終性交渉(感染時期)から3週後に梅毒抗体検査を受け,陰性。Aが治療で治癒した後にA・Bは性交渉を再開。Aは再び硬性下疳発症。このカップル症例の問題点は,Bが受けた接触者検診の時期が早く,感染を見逃した点にあります。接触者への感染を否定するには感染時期から3カ月後の梅毒抗体検査〔RPR(rapid plasma reagin)テストと梅毒トレポネーマ抗体検査の両方〕が重要と考えています。
国立感染症研究所感染症疫学センター発表の統計によると,2014年頃から男女間感染が急激に増加しています。筆者らの診療経験では性風俗の場を介しての感染が目立つように感じていますが,公式統計の裏付けは今のところありません。
わが国では,MSM(men who have sex with men)で梅毒トレポネーマ既感染率が高く,一方,HIV感染者でMSMの比率が高いことから,MSMでは両疾患に関連があると考えられています。
そねざき古林診療所のデータ(2009~13年)で男性の梅毒患者55例で治療開始後の3カ月間にHIV感染が新たに2例判明しました。口腔や外性器・肛門・直腸などに梅毒病変(潰瘍性病変等)を有すると,性行為によりその部位からHIVが侵入しやすいことが機序として推定されます。
【回答者】
古林敬一 そねざき古林診療所所長
荒川創一 三田市民病院院長