重症内科疾患例に対する退院後の抗凝固療法は、静脈血栓塞栓症(VTE)抑制によるベネフィットと出血リスク増加というリスクのバランスが不明であり、その有用性は確立していない。本年の欧州心臓病学会(ESC)では、この点を明らかにすべくXa因子阻害薬とプラセボを比較したMARINER試験が報告された。しかし「VTE・VTE関連死」発生リスクに、有意差は認められなかった。
26日の「HOTLINEセッション1」にて、Alex C. Spyropoulos氏(レノックスヒル病院、米国)が報告した。
MARINER試験の対象は、左室機能低下心不全(HFrEF)、あるいは急性呼吸不全、閉塞性肺疾患急性増悪、脳梗塞、急性の感染症・炎症性疾患で3~10日間入院し、かつVTE高リスク(IMPROVE VTEリスクスコア≧4)だった1万2024例である。抗血栓療法を要する他疾患合併例や悪性疾患例、さらに直近3カ月以内の出血既往例は除外されている。平均年齢は70歳で、男女ほぼ半数ずつだった。約半数がアスピリンを服用し、チエノピリジン系薬服用は5%強のみだった。
これら1万2024例は、退院時にXa因子阻害薬リバーロキサバン10mg/日を開始する群とプラセボ群にランダム化され、45日間、二重盲検法で追跡された。ただしクレアチニン・クリアランス(Ccr)が50mL/分未満(30mL/分以上)例では、リバーロキサバン、プラセボとも7.5mg/日に減量された。
その結果、有効性1次(primary)評価項目である「VTE・VTE関連死」は、Xa因子阻害薬群で0.83%、プラセボ群で1.10%に認められた。Xa因子阻害薬群におけるハザード比[HR]は0.76(95%信頼区間[CI]:0.52-1.09、P=0.14)であり、Xa因子阻害薬の優越性は認められなかった。Ccr「50mL/分」の上下で2分して比較しても、有意差はなかった。
同様に、安全性の主要(principal)評価項目である「大出血(ISTH基準)」は、Xa因子阻害薬群の0.28%、プラセボ群の0.15%に認められたが、有意差はなかった(HR:1.88、95%CI:0.84-4.32)。ただし、「医学的対処を要する非大出血」は、プラセボ群(0.85%)に比べ、Xa因子阻害薬群(1.42%)で、有意に高リスクとなっていた(HR:1.66、95%CI:1.17-2.35)。
本試験は、Janssen Research and Development社の支援を受けて行われた。
これらの結果は26日、報告と同時に、N Engl J Med誌Webサイトに掲載された。