日本高血圧学会の「高血圧治療ガイドライン2014」(JSH2014)(表1)が公表された3日後の4月4日、日本人間ドック学会・健保連から血圧の新しい基準範囲(表2)の提唱があり、147/94mmHgまでは正常としていることから、高血圧診断基準の緩和という内容で多くのメディアが紹介した。その結果、服薬や通院を止める患者が出たり、高血圧基準は緩和されたのかという質問が外来で集中し、高血圧診療にあたる多くの医師が、対応に非常に苦慮する事態となった。日本人間ドック学会が基準範囲として示した95%信頼区間は、赤血球、白血球、AST、ALT等、現在病気があるかどうかをみる指標には用いられるが、将来の合併症発症の観点から診断基準を決める高血圧、糖尿病、LDLコレステロール等には使用されるものではない。今回の血圧の基準範囲は日本人間ドック学会も診断に使うものではないことを認めているにも関わらず、ダブルスタンダードとして基準範囲という言葉を残そうとしていることが混乱の根本的原因である。
今年10月開催の日本高血圧学会総会(横浜市)で、筆者司会のもと「ディベートセッション─血圧の『基準値』を考える」が行われ、日本人間ドック学会より山門實学術委員長・副理事長(足利工業大学看護学部長)、日本高血圧学会から楽木宏実学術委員長(大阪大学大学院老年・腎臓内科学教授)がディベーターとして参加し、双方の立場から十分な討論を行った。
本稿ではその内容を中心に、日本人間ドック学会の基準範囲の誤りを明らかにし、国民の混乱の解決のためになすべきことを提唱したい。
2014年4月4日、日本人間ドック学会と健康保険組合連合会の共同研究事業として渡辺清明実行委員長の下で行った2年間の研究事業(2013〜2014年)の内容が、中間報告として厚生労働省へ報告され、報道機関へも公表された。これが新しい基準範囲である。その後、血圧の基準範囲が緩和されたとの大手メディアの報道と関係者の混乱と抗議を受け、日本人間ドック学会は4月7日に次のように訂正して述べている。
「この事業実施報告書を受けて、私どものガイドライン委員会、役員会等で議論した上で健診の現場で使える判定基準をこれから作成していく。現在のデータは単年度の結果であり、今後数年間さらにデータ追跡調査をして結論を出す。したがって、今すぐ学会判定基準を変更するものではなく、厚労省には特定健診の保健指導基準が性別、年齢別によって数値が違うものがあるという事実を報告した段階」という内容である。
しかし、この訂正後も、多くのメディアが高血圧の診断基準が緩和されたと報道し続けた。そのため日本医学会、日本医師会は5月21日、関係学会との協議もないまま、高血圧等の診断基準に95%信頼区間による基準範囲を使用したことを批判するコメントを発表した。さらに7月21日には、メディアおよび患者への説明が不十分であり国民の誤解を招くため、明確に説明する必要があると日本人間ドック学会の対応を促した。
4月7日の訂正コメントにあるように、判定基準に応用するには数年以上の追跡調査が必要だと認めながら、なぜ単年度の断面的中間報告で高血圧まで含めた基準範囲を公表したのか、その理由は不明である。
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