米国FDAの要請を受け現在、血糖低下薬は承認後に、糖尿病(DM)例を対象とした心血管系(CV)の安全性を確認するランダム化試験が必須となった。DPP-4阻害薬はこれまで、SAVOR-TIMI、EXSMINE、TECOSの3試験で、CVイベントのリスクをプラセボ以上に増加させないことが確認されているが、CVイベントに対する有意な「抑制」作用は認められてこなかった。
欧州糖尿病学会では、上記3試験とは若干対象の異なる2型DM例を対象にしたCARMELINA試験が報告された。しかしCVの安全性は確認されたものの、CVイベントはやはり抑制されなかった。4日、Darren D.McGuire氏(UT サウスウェスタン・メディカル・センター、米国)らが報告した。
CARMELINA試験の対象となったのは、2型DMと診断され、血糖低下薬使用にもかかわらずHbA1c「6.5~10.0%」、かつBMI「≦45kg/m2」でCV高リスクの6979例である。「CV高リスク」は、「顕性蛋白尿陽性の大血管症例」、「eGFR低値±アルブミン尿陽性例」と定義された。平均年齢は66歳、6割強が男性、BMI平均値は31kg/m2だった。またDM罹患期間は平均15年間、55%弱がメトホルミンを服用、60%弱がインスリンを使用していた。特筆すべきは「eGFR<60mL/分/1.72m2」例が62.3%含まれている点で、この値は既報のSAVOR-TIMI試験(15.6%)やEXSMINE試験(29.1%)、TECOS試験(9.3%)に比べ、著明に高い。同様に顕性蛋白尿例の割合も、前3試験に比べ高かった。
これら6979例は全例、各国ガイドラインに準拠したCVイベント予防治療の上、リナグリプチン5mg/日群(3494例)とプラセボ群(3485例)にランダム化され、二重盲検法で2.2年間(中央値)観察された。CVイベント抑制薬は、80%以上がレニン・アンジオテンシン系抑制薬、60%がβ遮断薬を服用していた(スタチン、抗血小板療法については報告なし)。
その結果、1次評価項目である「CV死亡・心筋梗塞・脳卒中」発生率は、DPP-4阻害薬群:5.77/100例・年、プラセボ群:5.63/100例・年となり、DPP-4阻害薬群の「非劣性」は証明されたが(P=0.0002)、プラセボに対する「優越性」は認められなかった(ハザード比[HR]:1.02、95%信頼区間[CI]:0.89-1.17)。これはランダム化された全例を対象としたIntention-to-treat(ITT)解析である。しかしDPP-4阻害薬群の23.9%、プラセボ群の27.4%では服薬を中止していた。そこでプロトコール遵守例のみを対象とした解析を見たが、ITT解析と同様の結果だった(HR:1.01、95%CI:0.87-1.18)。なお、プロトコール遵守例解析における「非劣性」の検定は、示されなかった。
またDPP-4阻害薬によるリスク増加が一部で懸念されている心不全も、DPP-4阻害薬群における心不全入院率は2.77/100例・年で、プラセボ群の3.04/100例・年と有意差を認めなかった(HR:0.90、95%CI:0.74-1.08)。総死亡リスクにも、有意差はなかった。また2次評価項目である腎イベントも、両群間に有意差なく、DPP-4阻害薬群におけるHRは1.04(95%CI:0.89-1.22)だった。安全性の懸念を惹起する所見もなかった。