株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

敗血症性ショックの初期がウォームショックである理由は?

No.4929 (2018年10月13日発行) P.62

田村高廣 (名古屋大学医学部附属病院外科系集中治療部 病院講師)

足立裕史 (名古屋大学医学部附属病院外科系集中治療部 准教授)

登録日: 2018-10-12

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

敗血症性ショックの初期に末梢血管が開き,いわゆるウォームショックの状態になるのはどうしてですか。エンドトキシンが血管拡張作用を持つのか,もしくはサイトカインのいずれか,またはNOが血管を広げてしまうことによるのでしょうか。
また,その後,血管が収縮してコールドショックの状態になる機序についても併せてご教示下さい。これはエンドトキシンにより心筋の収縮力が弱くなるためでしょうか。

(東京都 F)


【回答】

【血管拡張物質が大量に産生され,血圧が低下してもしばらく末梢循環が維持されるため】

まず,ショックの定義と病態,敗血症の重症度を整理して考えます。

その昔,「ショック」という言葉は,重度低血圧と混同されていました。30年ほど前から,「重要臓器の血流が維持できない病態」と解釈が変わり,現在に至っています。敗血症の定義も2016年,十数年ぶりに新しくなりました1)。現在では,感染によって生命を脅かす臓器障害が生じている病態を敗血症と呼び,敗血症性ショックは,循環,細胞,代謝の異常を呈するものと定義され,診断基準には血清乳酸値の上昇が含まれる等,ほぼ「コールドショック」と呼ばれる状態に準ずると考えられます。

ウォームショックは,厳密には循環動態に基づいた病態の呼称ではありません。実際,一部の成書には,血圧の低下を伴わないウォームショックがあると紹介されています。血圧が保たれているのであれば,恐らく循環動態も破綻していませんので,末梢循環不全も生じていないと考えられます。しかし,それでもウォームショックという言葉が臨床の場面で有用である理由は,感染を原因とする敗血症の経過に際し,他のショックの病態と比較して,特徴的な臨床徴候とパターンを呈するからです。

感染症の初期においては,エンドトキシンに代表される病原体関連分子パターン(pathogen­associated molecular patterns:PAMPs)やアラーミン(alarmin)が,好中球,単球等の様々な経路を経て炎症性サイトカインを感染部の周囲に放出させます。これは本来感染を生じた局所部位においてはきわめて有効な生体の防御反応でしたが,全身の血流に炎症が及ぶ菌血症の状態になると,明らかに過剰かつ有害な反応に変わり,NOやプロスタノイド等の各種血管拡張物質が大量に産生されます。血圧が低下しても,後負荷の軽減によって心拍出量が維持されている間は末梢循環は維持され,発熱と相まって四肢末梢は温かいままで,これがウォームショックと呼ばれる理由です。出血性ショック等では,血圧低下に対して最初から血管収縮傾向に傾きますので,ここが大きな違いです。

ウォームショックは長くは続きません。数時間のうちにコールドショックへ移行します。ウォームショックの状態の間に,炎症性サイトカインが血管内皮細胞を傷害し,傷んだ内皮は血管壁から脱落します。血管内皮細胞が機能しなくなると,末梢の動脈は正常の反応性を失い,収縮へと転じます。心筋細胞も傷害されて,血管内の膠質を含んだ水分も間質へと漏出し,血圧は低下したまま心拍出量は低下して,末梢循環不全はさらに悪化していきます。これがコールドショックの病態です。

【文献】

1) Rhodes A, et al:Crit Care Med. 2017;45(3): 486-552.

【回答者】

田村高廣 名古屋大学医学部附属病院外科系集中治療部 病院講師

足立裕史 名古屋大学医学部附属病院外科系集中治療部 准教授

関連記事・論文

もっと見る

関連書籍

もっと見る

関連求人情報

関連物件情報

もっと見る

page top