(長崎県 N)
【より高感度な免疫固定法とともに診断と治療効果判定に利用される】
2003年にInternational Myeloma Working Group(IMWG)により報告された多発性骨髄腫(multiple myeloma:MM)の診断基準は,実地臨床や研究に広く用いられてきました。新規薬剤の出現以前には,臓器症状のないMMの時期に治療を開始しても予後の改善はみられませんでしたが,近年に行われた,骨髄腫へ進行するリスクが高いくすぶり型骨髄腫(smoldering MM:SMM)に対する,新規薬剤による治療の臨床試験で,明らかな生存期間の改善がみられました。それらの結果を考慮し,2014年にIMWGの診断基準が改訂されました1)。
表1に2014年,IMWGのMM,SMM,monoclonal gammopathy of undetermined significance(MGUS)の診断基準を示しました。これらの基準は,①M蛋白,②骨髄のクローナルな形質細胞比率,③骨髄腫診断事象(myeloma defining events:MDE)をもとに分類されています。
MMを疑う症状があれば,まず基本的な検査に加え,セルロースアセテート膜電気泳動による血清蛋白電気泳動を行い,泳動膜上のM-bandまたはデンシトメトリー上のM-peakを確認します。M-peakはγないしβ域に出現します。ただし,ベンス・ジョーンズ型骨髄腫では血清蛋白の増加およびM-peakはなく,尿蛋白増加と尿M-peakを認めます。血中ないし尿中にM蛋白を認めた場合は,免疫電気泳動法あるいは免疫固定法によりM蛋白の同定と型判定を行います。
免疫電気泳動法はアガロース電気泳動とゲル内沈降反応を組み合わせた定性的分析法で,抗ヒト全血清を用いて20種以上の蛋白成分を検出します。M蛋白の同定には抗IgG,抗IgA,抗IgM,抗κ,抗λなどの特異抗血清を用います。たとえば抗IgGと抗κ血清に反応し沈降線(M-Bow)を認めれば,IgG・κのM蛋白の存在がわかります。
免疫固定法は血清や尿蛋白を電気泳動により分画した後,抗IgG,抗IgA,抗IgM,抗κ,抗λ血清を直接塗布し,抗原抗体反応を起こし,免疫沈降物を染色し検出します。M蛋白が固定化され拡散しないため,微量なM蛋白の検出に有効です。
これらの方法でもM蛋白が検出されない場合は非分泌型骨髄腫を疑います。尿中M蛋白を定量する場合は24時間蓄尿を用いて測定を行います。
免疫電気泳動法と免疫固定法を比較すると,免疫固定法のほうが高感度であり,免疫電気泳動法ではM蛋白が100mg/dL以上ないと検出できませんが,免疫固定法では5mg/dL以上あれば検出でき,治療後の残存M蛋白を検出する際にもより有用です。IMWGの治療効果判定基準では,血清電気泳動法でM蛋白を検出できない場合,最良部分奏効(VGPR)となり,免疫固定法で検出できない場合,完全奏効(CR)となります2)3)。
以前,免疫固定法は保険点数が算定されませんでしたが,2018年より算定されるようになり,わが国でも必須の検査になりました。
【文献】
1) Rajkumar SV, et al:Lancet Oncol. 2014;15 (12):e538-48.
2) 日本骨髄腫学会, 編:多発性骨髄腫の診断指針. 第4版. 文光堂, 2016, p12-4.
3) Durie BG, et al:Leukemia. 2006;20(9):1467-73.
【回答者】
笠松哲光 群馬大学大学院保健学研究科生体情報 検査科学
村上博和 群馬大学大学院保健学研究科生体情報 検査科学教授