ICUせん妄は,重症患者の中枢神経系に発生する急性脳機能障害としての表現型であり,多臓器障害の一分症である
ICUせん妄の発症は,短期的にも長期的にも患者予後を悪化させる
集中治療後生存患者の生活の質(QOL)低下の要因としてICUせん妄の関与が強く疑われている
現時点でICUせん妄対策として有効性が確認されているのは早期リハビリテーションのみである
日常的な医療行為として「ABCDEバンドル」の考え方を取り入れることが重要である
せん妄とは,一般病棟においても日常臨床上しばしば遭遇する意識障害である。米国精神医学会の「精神疾患の診断・統計マニュアル第5版(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 5th edition:DSM-5)」1)によるせん妄の診断基準を要約すれば,せん妄とは,何らかの身体疾患や薬物,あるいは全身状態の変化などによって惹起される,急性で変動する意識障害・認知機能障害であり,失見当識や知覚障害(錯覚,誤解,幻覚など),思考錯乱,記憶障害,注意障害,精神活動性の増加または減少,情緒障害(不安,恐怖,怒りなど),判断力の低下などの多彩な精神症状を呈する状態であり,出現する症状によって3亜型に分類されている(表1)2)。
これらの中で,過活動型せん妄は,その症状の激しさから一般医療者にも認識されやすく,また治療の妨げともなりやすいため,集中治療領域ではかつては「ICU症候群」などと表現されて,以前から治療介入の対象とされてきた。一方,低活動型せん妄では危険行動を呈することは少なく,管理上も一見すると「安静が保持」されている状況にも見えることなどから,これまで積極的に診断されることは少なかったが,ICUに収容されるような重症患者のせん妄は,実際には圧倒的に低活動型が多く,いわゆるICUせん妄の多くが見過ごされ,結果として放置されてきたことがわかっている3)。
しかし,人工呼吸患者に発生するせん妄が患者予後を大きく悪化させる独立危険因子であることが報告4)されて以降,ICUにおけるせん妄発症が患者の生命予後を低下させるとする報告は多い。現在では,ICUせん妄は,重症患者にしばしば発生する多臓器障害のうちの中枢神経系に発生する急性脳機能障害としての表現型であり,また,中枢神経系は,重症患者に発生する機能障害臓器として,呼吸器系や循環器系と並んで頻度の高い標的臓器であるという考え5)が広く受け入れられている。したがって,パルスオキシメータや血液ガス分析,あるいは血圧や心電図などで,呼吸状態や循環動態を経時的にモニターするのと同列の観点で,中枢神経系の経時的なモニタリングとしてのせん妄スクリーニングが,現代ICUでの必須要件となっている6)7)。