【心血管疾患発症の抑制を目的とした薬剤選択】
元来糖尿病治療は,血糖値を下げることに主眼が置かれ,血糖降下作用の強さが選択基準となっていた。しかし,2007年に,海外で当時使用されていたチアゾリジン系薬のRosiglitazoneによって,心筋梗塞発症リスクが有意に増加することが報告された。この研究結果は衝撃的で,血糖値を下げる薬剤のすべてが心血管疾患(CVD)を抑制するわけではない,ということが明らかになった。
改めて糖尿病治療におけるCVDの発症抑制が注目されることになったのだが,新たに登場したインクレチン関連薬であるDPP-4阻害薬では安全性は認められたものの,CVD抑制効果は認められなかった。また,GLP-1受容体作動薬も,わずかにCVD抑制効果を示すのみで,十分な効果は認められなかった。
それに対して良い意味で期待を裏切ったのがSGLT2阻害薬である。SGLT2阻害薬は腎臓の近位尿細管にあるナトリウムグルコース共輸送体2を阻害し,尿中からのグルコース再吸収を抑制することで血糖値を下げる薬剤である。CVD抑制効果については当初まったく期待されていなかったが,大規模臨床試験においてSGLT2阻害薬のCVD抑制効果が近年相次いで報告された1)2)。これをふまえ,17年に米国糖尿病協会はSGLT2阻害薬の使用を強く推奨するとした治療指針を発表した。近い将来,SGLT2阻害薬は2型糖尿病治療に必須の存在となることが予想される。今後の動向に注目したい。
【文献】
1) Zinman B, et al:N Engl J Med. 2015;373(22): 2117-28.
2) Neal B, et al:N Engl J Med. 2017;377(7):644-57.
【解説】
江尻健太郎 岡山大学循環器内科