(東京都 Y)
【発症前に急激に血圧が上昇している可能性はあるが,エビデンスとしては不十分】
高血圧症は脳出血,脳梗塞に共通の最大の危険因子であり1)2),血圧が高いほど脳卒中の発症率が高くなることが知られています3)。また,朝方の血圧上昇がある高齢者は脳梗塞を起こしやすく4),血圧上昇が脳梗塞発症のリスクとなることには十分な科学的根拠があります。実際に外来通院患者で,血圧が高くなってくると脳卒中を起こすことも経験されます。抗血栓薬服用者の血圧と出血合併症の関係を調べたBAT研究で,観察期間中に頭蓋内出血を発症した患者群では,経過中,収縮期血圧,拡張期血圧ともに徐々に上昇してきていたことが示されています5)。
また,脳梗塞急性期治療を行っていると,多くの患者で収縮期血圧は140mmHg以上となっています。この脳梗塞発症時の血圧上昇は,脳梗塞患者の2/3~3/4に認められ,これには発症前の高血圧症の既往,神経内分泌,入院ストレス,頭蓋内圧上昇などが関与し,血圧上昇は脳梗塞発症から数日間持続するとされています6)。
以上から脳梗塞患者では,発症前に急激に血圧が上昇している可能性はあります。しかし,脳梗塞という観点ではこれを示す明確なデータが乏しく,急に血圧が高くなることが脳梗塞を起こすという明確なエビデンスは現在のところないと考えます。
【文献】
1) Kannel WB, et al:JAMA. 1981;245(12):1225-9.
2) Tanaka H, et al:Stroke. 1982;13(1):62-73.
3) MacMahon S, et al:Lancet. 1990;335(8692): 765-74.
4) Kario K, et al:Circulation. 2003;107(10):1401-6.
5) Toyoda K, et al:Stroke. 2010;41(7):1440-4.
6) Saver JL:JAMA. 2014;311(5):469-70.
【回答者】
本間一成 東海大学医学部内科学系神経内科