SUMMARY
プライマリ・ケア医は,外科系のマイナーエマージェンシー診療も修得し,実践できることが望ましい。
3つのPhaseを意識し目標設定を行うと,学習時の心理的負担が少ない。
KEYWORD
マイナーエマージェンシー
本稿では,「マイナーエマージェンシー」を「軽症の救急疾患」という意味で用いる。マイナーエマージェンシーとは内科・外科の領域を問わず存在するものと考えられるが,今回は私たちプライマリ・ケア医にとって馴染みの薄い,外科系のマイナーエマージェンシーの修得法について論じる。
PROFILE
2011年広島大学卒業。非専門医が外科救急診療を学ぶプログラム「T&Aマイナーエマージェンシーコース」を主宰。著書として「動きながら考える!内科救急診療のロジック」がある。
POLICY・座右の銘
If you want to go far, go together.
これまでの医師育成過程では,緊急性や重症度の高い,いわゆるメジャーエマージェンシーの学習に重きが置かれ,特に外科系領域のマイナーエマージェンシーに割ける時間は多くはなかった。ところが,外科系マイナーエマージェンシーの頻度は少ないわけではなく,鼻出血や軽度の熱傷など日常生活で誰もが遭遇しうるものも含まれている。「患者さんのすべての訴えに耳を傾ける」というコンセプトを持つプライマリ・ケア医が,外科系マイナーエマージェンシー診療も修得し,実践することで,患者さんの期待に一層応えることができる。
外科系診療の経験の少ないプライマリ・ケア医が少ない心理的負担で外科系マイナーエマージェンシーを修得するためには,以下のPhaseに沿った段階的な学習が有用と考える(図1)。
日常診療で内科系疾患を疑う主訴の中にも外科系疾患が隠れている。
たとえば,頭痛というと,頭蓋内疾患を想定しがちだが,隠れている外科系疾患として,閉塞隅角緑内障がある。頭部CTで異常がない急性発症の頭痛を訴える患者さんに対し,眼球をまぶたの上から触診し,(左右の比較や検者の目との比較で)硬さに差があるかを確認するという診察ができれば,閉塞隅角緑内障の診断に大きく近づくことができる(通常,眼圧は20mmHg以下だが,閉塞隅角緑内障では,平均眼圧は37mmHgであったという報告1)がある)。白内障手術を行った既往の確認をすることも閉塞隅角緑内障の診断に役立つ。白内障治療に用いる眼内レンズは,本来の水晶体より薄く小さいため,白内障手術を行った眼では閉塞隅角となりえない。この情報を得ることができれば,他の疾患の可能性を優先的に検索することができる。逆説的であるが,内科の枠を越えた知識の獲得によって,内科診療そのものの質も向上させることができる。