(岩手県 H)
【大規模臨床試験の結果に裏付けられた脂溶性と長時間作用性による】
β遮断薬は降圧薬に分類されていますが,降圧薬としての使用はかなり少なくなってきています。一方,虚血性心疾患,低心機能の心不全患者,特に駆出率の低下した収縮性心不全については,死亡率の改善と心血管イベント発症の抑制について,主に1990年から2000年代に行われた大規模臨床試験によってエビデンスが構築されており,現在は生命予後改善薬として,心不全治療薬の要として使用されています。
ご質問の通り,その中でも,β1受容体選択性の高いビソプロロールとα受容体遮断作用を併せ持つカルベジロールが頻用されています。これはUS Carvedilol試験やCIBIS-Ⅱ試験などといった多くの大規模臨床試験の結果に基づいています(表1)1)。
両者の薬理学的特性は異なりますが,共通しているのは脂溶性(図1)2)であることと,長時間作用性であることです。脂溶性であることから,組織移行性が良好なため,透析などで除去されることもなく,臓器保護効果を期待することができます。短時間作用型においてはβ受容体の感受性亢進の期間が生じるために,頻脈や不整脈などが惹起されやすくなる可能性があると考えられています。
ちなみに,欧米の臨床試験において用いられているメトプロロールはコハク酸です。わが国で使用できる酒石酸塩は長時間作用型ではないため,心保護効果は弱いとされています。心不全パンデミックが懸念される今後,心不全治療薬としてのβ遮断薬の役割はますます大きくなっていくと思われます。
【文献】
1) Siddiqui A, et al:Curr Opin Cardiol. 2006;21 (5):517-25.
2) Hayashi D, et al:Jpn Heart J. 2004;45(6):895-911.
【参考】
▶ 岡田 基:医のあゆみ. 2017;260(5):451-6.
【回答者】
岡田 基 旭川医科大学救急医学講座准教授