(岐阜県 K)
【テストにより臨床的意義が異なるため,補い合うように用いるのがよい】
認知症スクリーニングテストを例にお話しすると,国内でよく用いられるのは改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)とMini-Mental State Examination(MMSE)です。いずれも感度・特異度ともに大きな差異はなく,両検査の相関も高いようです。ですが,HDS-Rでは記銘,見当識,遅延再生,言語の流暢性など言語性課題からなるのに対し,MMSEは言語性課題に加え,書字や図形模写などの動作性課題も含みます。このことは,各テストの回答にあたって被検者に求められる認知機能が異なることを示唆しています。したがって,複数のテストで判断する場合,それぞれ臨床的意義が異なります。
また,2つのテストを実施して双方が陽性だった場合,疾患に罹患している可能性が高まるとは必ずしも考えられません。その理由は,スクリーニングテストには「偽陽性」の問題が伴うからです。MMSEの場合,教育歴が短いと偽陽性を示しやすくなるといわれています。また,いずれのテストも受検態度や身体状態などによっても結果は違ってきます。一方,HDS-RもMMSEも高学歴や頭脳労働者ではカットオフ値を上回っても軽度認知症が存在することがあります。
うつ病のスクリーニングテストの場合,被検者が回答を意図的に歪めてしまう「反応歪曲」の問題が伴います。これには,「病気扱いされたくない」という気持ちから各質問に対して問題を示さない方向に回答が歪むパターンもあれば,「治りたくない(疾病利得)」とか「つらい症状に注目しやすい(注意バイアス)」などの事情から,実際の病態以上に深刻にとらえる方向に回答が歪むパターンもあります。ですので,スクリーニングテストの結果から認知症やうつ病の診断を下すことはできません。
双方の結果が食い違った場合,仮に別のテストを行うのであれば,既に行ったテストでみていない機能や状態についてとらえることができるものを選択するとよいでしょう。認知症では,病初期にみられる症状は原因疾患によって異なる場合が多いので,たとえばアルツハイマー病であれば近時記憶や視空間認知をとらえる検査を実施する1)といったようにです。患者本人に尋ねるのではなく,Clinical Dementia Rating(CDR)2)などを用いて家族などキーパーソンに日頃の様子を尋ねたり,患者本人の様子を観察したりすることで評価を行うことも推奨されます。
認知症にせよ,うつ病にせよ,診断にあたっては生活の支障の程度をとらえることが重要です。本人や家族への日常生活についての丁寧な問診が重要となるのは言うまでもありません。
【文献】
1) Takeda S, et al:J Am Geriatr Soc. 2010;58(6): 1199-200.
2) Morris JC, et al:Arch Neurol. 2001;58(3):397-405.
【回答者】
竹田伸也 鳥取大学大学院医学系研究科臨床心理学専攻 准教授