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過緊張へのβ遮断薬の効果は?

No.4980 (2019年10月05日発行) P.57

朝倉 聡 (北海道大学保健センター/大学院医学研究院 精神医学教室准教授)

登録日: 2019-10-05

最終更新日: 2019-10-01

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人前で発表するときなど,過緊張(あがり症)で声の震えや,楽器の演奏がうまくできないことがあります。抗不安薬ではパフォーマンスが落ちるので過緊張の原因となる交感神経を抑えるβ遮断薬(プロプラノロールなど)を使うのは効果的でしょうか。
また,パニック障害にもβ遮断薬は効果があるのでしょうか?(東京都 F)


【回答】

【β遮断薬の社交不安症への適用はエビデンスに乏しく,現状SSRIが第一選択薬と考えられる】

臨床場面では,人前で発表するときなどの過緊張(あがり症)に対してβ遮断薬が使用されていることがあると思われます。米国精神医学会による「精神疾患の診断・統計マニュアル第5版」(DSM-5)1)によると,ご指摘の症例は,社交不安症の「パフォーマンス限局型」に当たると思われます。

社交不安症は,他者の注目を浴びる可能性のある社交場面(雑談をしたり,よく知らない人に会ったりするような一般的な社交場面や,食べたり飲んだりすることを見られるような場面,他者の前で何らかの動作をする場面など)で著しい恐怖または不安を呈することが特徴となります。その中で,恐怖が公衆の面前で話をしたり動作をしたりすることに限定されている場合を「パフォーマンス限局型」と特定することになっています。

社交不安症の薬物療法としては,現在,選択的セロトニン再取り込み阻害薬(selective serotonin reuptake inhibitor:SSRI)が第一選択薬と考えられています2)。ベンゾジアゼピン系抗不安薬では認知機能低下をきたし,パフォーマンスが落ちる可能性が考えられますが,SSRIでは認知機能低下は起こりにくいと考えられていますので,「パフォーマンス限局型」の社交不安症についても有効と思われます。

SSRIによる薬物療法では,効果出現まで数週間~数カ月継続して服用する必要があります。この間,人前での発表などがうまくいくような成功体験を十分に重ね自信がついてくると,1年程度SSRIによる薬物療法を継続後,減量・中止が可能となることがみられます。また,認知行動療法のような精神療法の有効性も指摘されています。残念ながら社交不安症に対するβ遮断薬のエビデンスは乏しいのが現状です2)

パニック障害に対する薬物療法としてもSSRIの有効性が指摘されていますが3),β遮断薬は推奨されてはいません。

【文献】

1) American Psychiatric Association:Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders Dsm-5. Amer Psychiatric Pub Inc, 2013.

2) Williams T, et al:Cochrane Database Syst Rev. 2017;10:CD001206.

3) Bandelow B, et al:Dtsch Arztebl Int. 2014;111 (27-28):473-80.

【回答者】

朝倉 聡 北海道大学保健センター/大学院医学研究院 精神医学教室准教授

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