本態性振戦は「原因が特定できない(本態性)ふるえ(振戦)」を指す。中枢性振戦のひとつと考えられているが,病態機序はいまだ不明である。振戦は規則的で振動性の不随意運動であり,本症は振戦をきたす疾患の中で最も多い。有病率は2.5~10%で高齢になるほど上昇し,65歳以上では5~14%以上とされる。また,17.4~100%で家族歴を認める。
運動時と姿勢時振戦がみられ,安静時振戦は稀で,それ以外に錐体外路症状などはみられない。重症例では,上肢の企図振戦がみられることもある。振戦の周期は4~12Hzの範囲にある。精神的な緊張で増強し,50~90%の患者で飲酒により振戦が軽減する。緩徐進行性の経過をたどり,振幅が増加,症状のみられる身体の範囲が広がる。通常は上肢のみ,両側性だが,左右差を認めることもある。頭部の左右への細かいふるえ(no-no tremor)がみられることがある。パーキンソン病やパーキンソン症候群などの神経疾患,甲状腺機能亢進症,アルコール・抗うつ薬の摂取などの鑑別が重要である。
振戦以外に症状がなく,日常生活動作や社会生活に支障がなければ,経過観察のみで問題ない。機能予後は症例によって異なるが,一般的に良好で,何もできなくなるほど増悪することは稀である。経過観察中に,姿勢時と運動時の振戦以外の症状がみられるようになったら(安静時振戦,動作緩慢や歩行障害など),脳神経内科医への相談を考慮する。
生活に支障を自覚する場合には内服治療を行うが,症状を改善する対症治療である。症状の程度によっては,振戦を軽減したいときだけ,頓服薬として内服することも可能である。
内服薬が奏効せず,生活の質の低下が著しい場合,ボツリヌス毒素(botulinum toxin A:BTX)注射療法や手術療法も考慮する。
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