慢性疲労症候群(Chronic Fatigue Syndrome:CFS)は、原因不明の激しい全身倦怠感を主症状とし、他に微熱、筋痛、筋力低下、関節痛、頭痛、睡眠障害など、多彩な臨床症状を呈する慢性疾患である。しかも疾患特異性のある臨床検査が見つからないため診断に苦慮することが多い。
そのため、これまで世界中で診断基準が提唱されてきた。例えば米国CDC(Holmes1),Fukuda2),Reeves3))、カナダ(Carruthers4),Jason5))、ロンドン(Dowsett6))、オックスフォード(Sharpe7))などが知られているが、よく用いられているのはFukudaの診断基準である。わが国では1991年に厚生省(当時)がCFS研究班を発足させ(班長:木谷照夫阪大教授)、診断基準が策定され8)、国内で繁用された。2007年には日本疲労学会が改定診断基準を発表した9)。
世界各国でこれ程多くの診断基準が出回り、何年経っても1つの診断基準に絞り込めなかったのは、臨床医の意見が一致しなかったことによる。それはこの疾患の本態が不明であり、診断の決め手となる客観的な根拠が見つからなかったことに起因する。
CFSを取り巻くこうした状況の中で、2015年2月、米国Institute of Medicine(IOM)は、多くの基礎医学者、臨床医そして患者・家族からの意見を取り入れて、CFSの再定義を検討し、その結果を報告した10)。
従来のCFS診断基準が学会あるいは研究施設単位で提唱されていたのに対し、今回は米国保健福祉省(HHS)が、国立衛生研究所(NIH)、食品医薬品局(FDA)、疾病対策センター(CDC)、医療研究品質庁(AHRQ)などに協力を要請し、全米の総力を挙げてCFSの疾病概念を明確にすることを目的に、これをNational Academy of Sciencesの一部門であるIOMに指示したのである。
一方、CFSという病名についても、欧米では当初から異論があった。ヨーロッパでは古くからポリオ流行のあと類似の症例が多発したことや、ロンドンのRoyal Free Hospitalの有名な集団発生などから、英国の研究者たちは従来のポリオとは異なる中枢神経系の感染性疾患を考え、myalgic encephalomyelitis(筋痛性脳脊髄炎、ME)と命名した。
CFSは本来米国での病名であった。1985年にネバダ州タホ湖畔の集団発生に端を発し、EBウイルス感染か否か論議があり、CDCの調査により診断基準が作成されてCFSと命名された。しかし患者団体は、fatigueという用語は印象が良くないと言い、他の病名にするよう運動を起こした。そのため一時chronic fatigue immune dysfunction syndrome(CFIDS)、あるいは postviral fatigue syndrome(PVFS)と呼んだこともあったが、結局、現在ではME/CFSと併記することが国際的には一般的になった。しかし、2つの病名を列記していること自体が異例であった。そこで今回の改名の発議になったのである。
残り5,126文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する