片側顔面痙攣とは,顔面神経が脳幹から出る根部で血管により圧迫を受けることにより,過活動を引き起こすことで生じる病態である。三叉神経痛・舌咽神経痛とともに神経血管圧迫症候群として分類される。2008年に日本神経治療学会から標準的治療の指針が出されており,その後治療概念・方法に変化はない。
問診および視診が最も重要である。ほとんどの症例で眼輪筋の細かな収縮に始まり,徐々に収縮の範囲が広がり,口輪筋まで収縮し,眼輪筋と同期するようになる。普段の生活で緊張する場面,診察時には強制閉眼や,口をすぼめたり,「イー」と口を横に広げたりする表情で誘発されることが多い。症例によって進行の速度はまちまちであるが,多くの場合,症状が顕著になるまでに数年程度かかる。発症して間もない患者が訪れた場合には明確な診断に至らないことが多いので,その旨をきちんと患者に伝え,一定期間後に症状を確認するか,または頻度・程度が高くなってから再診するように指示する。診察時に症状を確認できない場合,スマートフォンで動画を撮影し持参してもらうことも診断には有効である。画像診断はMRIにてなされる。手術治療を行う場合には必須となるが,それ以外の状況ではMRIは絶対的に必須な検査ではない。脳腫瘍や血管奇形による顔面痙攣の報告もあるが,きわめて稀であり,まずは血管と神経の接触・圧迫によるものと考えて妥当である。
治療選択には内服,ボツリヌス毒素療法,手術,の3つの方法があるが,手術が唯一の根治的治療である。いずれにしろ,治療導入には確実な診断が必要であり,診断が確定し,患者の治療希望があって初めて治療を導入する。ただし,症状が強くない患者に対しては,治療介入によるデメリットの可能性が高くなるため,経過観察のみの方針としている。
内服治療には,代表的なものとしてリボトリール®(クロナゼパム),テグレトール®(カルバマゼピン)などがあり,ごく少量から始めるのが妥当であるが,片側顔面痙攣に対してエビデンスがある治療ではなく,なおかつ眠気などの副作用もあるため,筆者は原則として処方は行っていない。中等度以上の症状と判断される患者が治療を希望した場合,ボツリヌス毒素療法または手術治療を提示する。どちらの治療方法も確立されたものであり,治療選択は患者に委ねられる。よって,どちらかの治療に偏った説明は避けるべきである。
たとえば,治療希望はあるが治療選択に迷っている場合には,まずはよりリスクの低いボツリヌス毒素療法を導入するべきであるし,一通りの選択を提示して根治的な治療を希望すれば,最初から手術治療を行っても問題はない。
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