就労で発症(増悪)し,休日に消失(軽快)するか,問診が重要である
鼻粘膜誘発テスト(鼻粘膜抗原誘発試験)が確定診断のゴールドスタンダードである
抗原回避が治療の要諦である
職業性喘息に進展しやすく,注意と予防が必要である
31歳男性
職業:研究者
主訴:くしゃみ,鼻漏
病歴:医学部を卒業後,大学院に進学し,ダニ抗原に対するヒトT細胞応答に関する研究を行った。学位取得後,ポストドクターとして留学。留学先ではアレルギーモデルマウスを用いた糖鎖抗原の免疫活性に関する研究に従事した。研究開始約6カ月後より鼻炎を発症。就労時,特にCBA/J系マウスを操作した際に症状がみられ,in vitroの実験時や休日には症状が消退する。咳や喘鳴など鼻炎以外の症状はない。マウス尿を用いたプリックテストで著明な膨疹および紅斑を認めた。
診断:マウス曝露による職業性アレルギー性鼻炎(実験動物アレルギー:laboratory animal allergy)
経過:就労中のマスクおよび手袋の着用を徹底した。CBA/J系マウスを用いない実験系に変更した。これらの環境整備および発症時のエバスチン内服にて,研究続行に支障はなかった。
職業性アレルギー性鼻炎は職業性鼻炎(occupational rhinitis)のひとつである。職業性鼻炎とは,職業や職場環境に由来する物質(職業由来物質)を吸入することにより発症,あるいは増悪する鼻炎である1)。職業性鼻炎は職業性アレルギー性鼻炎と職業性非アレルギー性鼻炎に大別できる。
わが国におけるアレルギー性鼻炎は,Ⅰ型アレルギーであり,動植物,化学物質,薬剤,金属などの物質がアレルゲンとして働く。一方,職業性非アレルギー性鼻炎では,曝露物質が刺激物として働く。これは刺激性鼻炎のひとつであり,急性刺激性(acute irritant),慢性刺激性(chronic irritant),腐食性(corrosive)にわけられる。アレルギー性鼻炎と非アレルギー性鼻炎の臨床的な大きな違いは,感作期間(初回曝露から発症までの期間)の有無である。アレルギー性鼻炎の場合は,感作すなわち抗原特異的免疫グロブリンE(immunoglobulin E:IgE)の産生とマスト細胞への固着までに,ある程度の期間を要する。すなわち,初回曝露で発症することは通常なく,就業後しばらくは発症しない期間がある。一方,免疫学的な機序を介さない非アレルギー性鼻炎の場合は,職業由来物質の初回曝露でも発症しうる。
さらに,もともと存在する鼻炎に対して職業由来物質が増悪因子となる場合もあり,これを作業増悪性鼻炎(work-exacerbated rhinitis)と呼ぶ。職業性鼻炎と作業増悪性鼻炎を併せて,作業関連鼻炎とする考えも提唱されている(図1)2)。