SUMMARY
わが国では労働基準法によって労働者に対する健診が事業者に義務づけられており,違反すれば事業者,労働者ともに懲罰を受ける可能性がある。健診項目のほとんどはエビデンスが不十分である。不必要な受診や精密検査を避けるため,かかりつけ医が個別に健診結果を確認,対応することが重要である。
KEYWORD
労働安全衛生法
1972年に制定された法律。労働者に対する健康診断を事業者に義務づけた法律で,健診を行わないと懲罰を課せられる可能性もある。
PROFILE
聖路加国際病院,名古屋大学総合診療部を経て,勝川ファミリークリニック(モデルクリニック)の開設と運営に携わる。現在,二子山ファミリークリニック院長。日本プライマリ・ケア連合学会認定家庭医療専門医,指導医。
POLICY・座右の銘
僕の前に道はない,僕の後ろに道はできる。
わが国の健診の歴史は戦前にさかのぼる。1940年に未成年の体力向上と結核予防を目的とした「国民体力法」が制定され,17~19歳の男子を対象に毎年体力検査が行われるようになった。また疾病の検診として結核に重点が置かれ,ツベルクリン反応とX線の集団検診も行われるようになった(1949年に廃止)。
その後,1947年に最低労働条件を定めた「労働基準法」が制定。労働者が健康な状態で労働に従事するためには,結核などの感染症をできる限り早期に発見することが重要であるとし,労働者に対する健康診断を事業者に義務づけた。1972年に制定された「労働安全衛生法」では,結核の項目に血圧測定などが追加された。以降,健診項目が随時追加されて,現在の健診となった1)。
労働安全衛生法では「事業者は労働者に対し,厚生労働省令で定めるところにより,医師による健康診断を行わなければならない」と規定している。したがって事業主は労働者に対し,雇入時および年1回以上の健診を行う義務があり,これを怠ると懲罰を受ける可能性がある。実際,事業者は雇用者に対し,健診の受診を職務上の命令として行うことができ,受診拒否者に対しては懲戒処分を行うことも認められている。
労働者に対する健診で行わなければならない項目を表1に示す。必須の項目として,「既往歴,業務歴の聴取,自覚症状や他覚症状の確認,身体測定,血圧測定,視力,聴力,尿検査」が挙げられる。35歳と40歳以上の人については,これらに加えて「胸部X線,心電図,血液検査(貧血,肝機能,脂質,血糖)」を行う必要がある。ここで注目すべきは,若い労働者については,身体計測や血圧測定といった簡易な健診のみでもよいということである。しかし,実際には多くの企業が血液検査を含めた詳細な健診を行っているようである。