昨年の米国心臓病学会(AHA)にて報告されたTreat Stroke to Target(TST)試験から新たな解析が、19日よりロサンゼルス(米国)で開催中の国際脳卒中学会(ISC)で発表され、アテローム動脈硬化性脳梗塞に対する積極的LDLコレステロール(LDL-C)療法は、長期継続により脳卒中を抑制することが明らかになった。一方、脳梗塞と一過性脳虚血発作(TIA)では、積極的LDL-Cの有用性が異なる可能性も示唆された。20日のLate Breakingセッションで、Pierre Amarenco氏(パリ大学、フランス)が報告した。
TST試験の対象は、アテローム動脈硬化性疾患を認め、かつ3カ月以内の脳梗塞(修正ランキンスコア0~3)既往、あるいは15日以内のTIA既往を有する、フランスと韓国で登録された2860例である。スタチンを基礎薬として、LDL-C目標値「70mg/dL未満」群と「100mg/dL未満」群にランダム化され、追跡された(非盲検)。すでにAHAで報告されたように、「70mg/dL未満」群では「100mg/dL未満」群に比べ、「虚血性脳血管障害、急性虚血性心イベント・心臓血管系死亡」(1次評価項目)リスクが、相対的に22%有意に減少していた。しかしその際、観察期間中央値が2.0年の韓国コホートでは、5.3年のフランスコホートと異なり、リスクの有意な低下を認めなかった(ただしコホート間に有意な交互作用なし)。短期間のスタチン治療では、有用性が十分に発揮されなかった可能性もある。
そこで研究者らは今回、長期追跡が可能だった、フランスコホート2148例のみの解析を試みた。平均年齢は65歳強、約7割が男性で、BMI中央値は26kg/m2、試験開始時のLDL-C平均値は140mg/dL弱だった。
試験開始後の到達LDL-C平均値は、「70mg/dL未満」群で66mg/dL、「100mg/dL未満」群で96mg/dLだった。血圧、HbA1c、喫煙率はいずれも、両群間に有意な差は認めなかった。
その結果、1次評価項目発生率は、「70mg/dL未満」群で9.6%と、「100mg/dL未満」群の12.9%に比べ、有意に低くなっていた(補正後ハザード比[HR]:0.74、95%信頼区間[CI]:0.57-0.95)。治療必要数(NNT)は31となる。
次に1次評価項目を項目別に比較すると、「心筋梗塞・冠血行再建術」(HR:0.66、95%CI:0.67-1.20)や「脳梗塞・TIA」(同0.83、0.64-1.08)では有意さを認めないものの、「70mg/dL未満」群におけるリスク減少傾向が認められた。一方、頸動脈・冠動脈血行再建術リスクに差はなかった(同1.01、0.75-1.36)。また「脳出血・脳梗塞」リスクは、「70mg/dL未満」群で有意に低かった(同0.72、0.54-0.96)。
また、興味深いことに、脳梗塞例とTIA例の間で、積極的LDL-C低下の有用性が異なっていた。すなわち、脳梗塞例では、「70mg/dL未満」群の1次評価項目HRが0.63(95%CI: 0.48-0.83)となっていたのに対し、TIA例では1.94(同0.94-4.03)だった(交互作用P=0.005)。本試験におけるTIAの定義は、2002年のTIA Working Group提言に従い、画像上虚血を認めないものに限られている(画像上陽性であれば、発作が短時間で消失しても「脳梗塞」)。Amarenco氏らはこの結果に驚くとともに、このようなTIAは虚血以外に起因する可能性があるため、今後この種の試験に登録すべきではないとの考えを示した。「TIA」の定義を再考するにも、興味深い結果ではないだろうか。
本試験はフランス政府、ならびに脳卒中サバイバー非営利団体(SOS‒Attaque Cérébrale Association)からの出資で行われ、Pfizer,Astra-Zeneca,Merckの各社からも条件なしの補助金を受けた。また患者登録が遅れたため、予定例数登録を待たず、早期中止となっている。
本結果は、学会報告翌日、Stroke誌にオンライン公開された。